糖転移酵素遺伝子改変マウスを利用した生体における糖鎖機能の解明

 分泌および膜タンパク質のほとんどに翻訳後修飾である糖鎖が付加されています。(みなさんがよく知っている赤血球上に存在するABO血液型抗原も糖鎖です。)糖鎖は、様々な生命現象に重要な役割を持つと考えられていますが、生体における分子レベルの機能はあまりよくわかっていません。近年、糖鎖合成関連遺伝子同定、糖鎖構造解析および糖鎖合成技術開発など糖鎖研究の著しい進歩と動物実験技術を組み合わせることによりさらに糖鎖の重要性が明らかになってきています。そこで、私たちは糖鎖合成酵素(主に糖転移酵素)の遺伝子改変マウスを表現型解析することで、糖鎖および糖タンパク質の生理機能を生体レベルで明らかにし、その機構を分子レベルで解明することを目的としています。今までに、私たちは10種類以上の糖鎖合成関連酵素のノックアウトマウスを作製していますが、現在は、糖タンパク質に付加される糖鎖の一つであるムチン型O-結合型糖鎖の生物学的機能に注目して研究をおこなっています。  

 O-結合型糖鎖は、タンパク質のセリンあるいはスレオニンに結合する糖鎖を示します(図1)。ムチンとは、もともとはムチン遺伝子群からなるコアタンパク質にO-結合型糖鎖が多数結合した高分子糖タンパク質であり、気管、消化管、生殖腺などの内腔を覆う粘液成分に存在します。ヒトのムチン遺伝子は20種類見つかっており、その役割は粘液による細胞の保護や異物の侵入防御です。また、癌や炎症性疾患ではムチンコアタンパク質の発現変化が知られています。ムチンコアタンパク質がもっているO-結合型糖鎖はムチン型糖鎖と呼ばれていますが、ムチンコアタンパク質以外にもムチン型糖鎖をもつ糖タンパク質は多数存在します。しかし、そのムチン型糖鎖が、キャリーするタンパク質の機能にどのように影響しているかは、ほとんどわかっていません。そこで、ムチン型O-結合型糖鎖合成に必須な糖転移酵素C1galt1およびその分子特異的シャペロンであるCosmcの様々組織におけるコンディショナルノックアウトマウス(cKO)の表現型解析を行うことによって、以下のような様々な組織における糖鎖機能解析を行っています(図2)。

@タモキシフェン誘導型全身性cKOによる表現型の網羅的解析・・・誘導後様々な組織(脂肪組織、腎臓、膵臓、胸腺、胃など)に影響が見られる。

A腎糸球体足細胞におけるムチン型糖鎖の役割・・・足細胞特異的cKOの解析により、足細胞足突起形態異常、蛋白尿などの異常が見られる。

B腹腔内常在マクロファージのアポトーシス細胞貪食におけるムチン型糖鎖の役割・・・骨髄系細胞特異的cKOの解析により、アポトーシス細胞貪食能の減少が見られ、その分子メカニズムを解析している。  

 これらの表現型変化の分子メカニズムを解析することによって、原因分子である糖タンパク質の糖鎖機能を明らかにし、ヒトに対応する疾患に対してのバイオマーカーとしての可能性を追求していきたいと考えています。