大Maf群転写因子MafAの個体における機能解析
筑波大学 基礎医学系 解剖学・発生学研究室

張 川(ちょう せん)

 大Maf群転写因子は、それぞれの生物種においてMafA、MafB、c-Maf、Nrlの4種類あることが知られており、それぞれ様々な組織の形成や機能発現に重要であることが示唆されている。その中でMafAは、ニワトリにおいて目の水晶体を誘導するマスターレギュレーターであること、マウスおよびヒトにおいて膵臓のランゲルハンス細胞のβ細胞に発現し、インシュリン遺伝子の発現制御をしている可能性が示唆されている。そこで、MafAの個体における機能を明らかにする目的で、MafA遺伝子欠損マウスを作製した。MafA遺伝子をnls-LacZ cDNAと置換するノックイン型の遺伝子破壊を行い、MafA遺伝子欠損マウスを作製したところ、ノックインしたLacZの発現が、体節、水晶体、網膜、十二指腸、嗅球、膵臓のβ細胞に認められた。MafAの完全欠損マウスは胎生初期に致死であった。ヘテロ欠損マウスについて糖代謝異常を検索したところ、糖負荷試験で、野生型のマウスと比較して、血中グルコース濃度の優位な上昇が認められ、高血糖が持続した。また、ヘテロマウスでは絶食状態で高血糖が認められ、糖尿病を発症していた。RT-PCRによる膵臓における遺伝子発現解析を行ったところ、ヘテロ欠損マウスでは野生型のマウスと比較して、MafAmRNAが減少するともにインシュリンmRNAの減少が確認された。

 以上のことから、MafAは生体内において、インシュリンの転写を制御していることが明らかになった。今後、ヒトの糖尿病発症との関連が注目される。