国立循環器病センター研究所 循環器形態部 室長 福原茂朋

 平成18年2月10日、11日の二日間、茨城県稲敷郡美浦村の花王霞ヶ浦研修所にて平成17年度の特定領域研究「G蛋白質シグナル」の班会議が開催され、参加させていただきました。会場になった研修所は霞ヶ浦のほとりに位置し緑に囲まれた大変良い環境で、参加者は日頃の忙しさから開放され会議に集中することができたのではないかと思います。

 会議に先立って領域代表者の堅田先生より本特定領域研究が発足されるに至った経緯と本領域研究の目的についてお話がありました。特にロッドベルとギルマンがG蛋白質を同定してからG質研究がどのように進められ、またそこに日本人の研究者がどう貢献してきたのかというお話は、各計画班の研究室から参加した若い研究者にとって、大変勉強になったと思います。堅田先生の挨拶に続いて8人の計画班員の先生方からこれまでの研究成果および今後の展望についての発表がありました。質疑応答を含めて一人20から25分という短い時間でしたが活発な討論がなされ、各計画班が何を目的に何を明らかにしようとしているのかお互いの研究を把握することができました。二日目は各研究室から大学院生を中心に13演題のポスター発表がありました。ここでは外部の研究者と交流する機会の少ない若手研究者が、他研究室の特に同年代の研究者と研究について討論することができ、大変良い交流の場になったのではないかと思います。予定では9時30分から11時30分までの2時間がポスター発表に当てられていましたが、12時の昼食まで各ポスターの前でディスカッションが続き、非常に充実したポスター発表になりました。私自身知らなかったこともいろいろあり、大変勉強になりました。また、初日の研究発表会後の懇親会とそのあとに行われた自由討論は、お酒を飲みながらのリラックスした雰囲気で深夜まで行われ、G蛋白質シグナルに興味を持つ研究者同士、親睦を深めることができたと思います。

 今回この会に参加させてい頂き、これからG蛋白質研究をどのように発展させていったらよいのか、私なりに少し整理してみました。最初の堅田先生の挨拶で本研究領域ではこれまでに構築されたG蛋白質の基本原理を基に、細胞機能を制御するシグナルネットワークにおけるG蛋白質の役割を明らかにするというお話がありましたが、まさにこれが今後のG蛋白質研究に必要なことだと思います。具体的にはG蛋白質が介在するシグナルネットワークが細胞の増殖、分化、運動、接着、形態変化さらには細胞内小胞輸送といった個々の細胞機能をどのように制御しているのか理解していくことが大切だと思います。そして、その情報を基にこれらG蛋白質シグナルによる細胞機能がどのような生命現象を制御しているのか個体レベルで明らかにしていくことが必要ではないでしょうか。すなわちG蛋白質が介在するシグナルネットワークを分子–細胞–個体のレベルで解析し、生命現象におけるG蛋白質の役割を理解することが今後のG蛋白質研究に必要なことだと考えます。5年間の本特定領域研究を通してこの目標が達成されることを期待しております。

   今回、この班会議に参加させていただき、大変刺激を受けて研究室に戻ってきました。会議で勉強させていただいたことを今後の研究に生かし、少しでも本特定領域研究さらには日本のG蛋白質研究の発展に貢献できるよう努力して参りたいと思います。次回の全体班会議は公募研究班員の先生方も加わり9月に札幌で開催されるとのことですが、今回の会議以上に充実した議論ができるよう今後研究を進めて参りたいと思います。最後に今回の班会議の準備および運営をしていただきました筑波大学の金保先生および金保研究室の皆様にお礼を申し上げます。



「特定領域研究「G蛋白質シグナル」班会議に参加して」

奈良先端科学技術大学院大学 細胞生物学専攻 博士後期課程2年 浦野大輔

 平成17年度の特定領域研究「G蛋白質シグナル」班会議が平成18年2月10-11日、研究代表者と研究分担者、大学院生など約50名を集め花王霞ヶ浦研修所にて開催された。本特定領域研究班における初の班会議ということもあり、各研究代表者がこれまでの研究、G蛋白質シグナル班として担当する内容について説明する側面が強い班会議となった。本特定領域研究では、1993-1995年の重点領域研究「情報転換因子としてのG蛋白質」などから解明された分子スイッチとしてのG蛋白質の基本的機能、役割を発展させ、生体内でどのような生理作用にG蛋白質が関わるか、G蛋白質活性の細かな制御が他分子を含めどのような機構でなされているか、多様な細胞内シグナルネットワークの中での個々のG蛋白質の位置づけの解明が期待されている。その研究内容は、神経ネットワーク形成、心肥大に関わるG蛋白質シグナルの役割から、全く新しいタイプのG蛋白質の機能解析、G蛋白質の活性を制御する新規分子の解析、さらにはG蛋白質活性化に起因する細胞構造改変の新技術による解析など多岐に渡っていた。今回は初日に行われた各研究代表者による研究発表8題に加え、2日目は博士課程大学院生を含む若手研究者によるポスター発表13題が行われた。また、初日夜の懇親会では総括班評価担当の竹縄忠臣先生の乾杯のあいさつの後、夜遅くまで様々なディスカッションが行われた。

今回私はG蛋白質研究に特化した会議に初めて参加したが、斬新なアプローチでのG蛋白質研究、G蛋白質シグナルが関与する生理機能の多様性、基本的なGDP/GTP交換メカニズムを超えたG蛋白質活性の詳細な制御メカニズムなどを見聞きすることで、この「G蛋白質シグナル」という研究分野が非常に広範に及ぶこと、またその重要性を再認識する良い機会となった。倉智教授らの研究グループからは、G蛋白質の不活性化を促進する分子RGSに関する研究が発表された。これまでの研究からRGS自身の分子機能の解析は進んでいたが、この馴染み深いRGSという分子がG蛋白質の担う生理機能に実際どう影響を及ぼすか、明瞭な実験結果に基づいて解明されとても感銘を受けた。堅田教授らの研究グループからは細胞内で定常時にGTP型として存在する新奇G蛋白質に関する研究内容が発表された。これまでに機能が解析されたG蛋白質はGDP型からGTP型に構造変換することで活性化し情報を伝達すると認識されてきた。GTP型の分子構造を主とするG蛋白質の機能解析からは多くの新知見が得られる可能性が高く、さらなるG蛋白質研究の広がりを期待させるものであった。渡邊助教授らの研究グループは、単分子イメージング解析という新技術を用いて、これまで細胞レベルでしか解析しえなかったG蛋白質の活性および機能を、細胞以下の微細レベルで解析していた。今後のG蛋白質シグナル研究における1つのブレイクスルーを予感させる研究内容であった。若手研究者によるポスター発表では、細かい実験の苦労話など同世代の研究者の話を聞き、大変興味深くまた自身の研究の励みとなった。私自身もポスター発表の場を与えていただき、G蛋白質の分野で活躍する研究者だからこそできる具体的かつ的確な多くのアドバイスを受けることができた。また、夜アルコールを飲みながらの研究討論の場では、普段討論する機会の少ない他研究室の先生方や同分野で切磋琢磨する若手研究者と、時間をかけ互いの研究内容を討論でき、大変良い刺激となった。本班会議はG蛋白質という共通の興味から、多種多様なアイデアが生まれ、また本研究分野の発展を肌で感じる非常に有意義な機会であったと感じている。