第2回 「G蛋白質シグナル」班会議感想

九州大学大学院薬学研究院

西田基宏

  平成18年9月5日、6日の2日間、北海道札幌市札幌サンプラザにて平成18年度全体班会議が開催された。開会の挨拶では、領域代表者の堅田先生が「G蛋白質シグナル伝達研究の現状と問題点」について説明され、これを踏まえた上で、本領域研究を今後どのように推進させていくか考えを示された。その中でも特に画期的だと感じたのは、インターネットによる情報発信を通じて、各研究室の技術・材料等の情報提供、質問欄の設置を行うという試みであり、研究班一体となって「G蛋白質シグナルの統合的理解」を目指そうとする意思が強く感じられた。続いて各研究班より、これまでの研究成果と今後の展望について発表がなされた。今回は、新たに32グループの公募研究班が加わり、2日間で40演題の口頭発表と29演題のポスター発表がなされた。公募研究班からは、高等動物に限らず、植物・細菌でのG蛋白質シグナル解析からタンパクレベルでの構造解析まで幅広い研究内容が紹介され、最先端のG蛋白質シグナル研究の動向を把握する上で良い勉強になったと思う。蛍光タンパクを用いたG蛋白質の動態あるいは相互作用の可視化を目指した研究は、従来の評価系では捉えきれなかった現象を解明する新しい突破口となる可能性が期待された。また、従来のGAPやGEFによるGサイクル制御に加えて、脂質-タンパク間相互作用、G蛋白質のコンフォーメーション(state)、脂質修飾などがG蛋白質の活性調節に深く関与することを知り、自分が考えていた以上にGサイクルは複雑に制御されていることを実感した。これだけ優れた技術や情報を持った研究班が協調して問題解決に望めば、きっと新たなG蛋白質シグナリングマップが構築されていくことであろう。しかし、今回の会議では、克服すべき課題もあったように感じる。それは質疑応答の中で一番多く聞いた「それは生理的に本当に重要なのか?」という質問である。(自分に関係するからかもしれないが)評価委員の宇井先生が、我々黒瀬研の研究内容に対し、現象論にとどまらず「臨床的意義」を考えていくように御指摘くださったことが特に印象深く残っている。解析方法の発達により、多くのタンパク分子や制御機構が明らかにされてきている一方で、それらが生理的にどれだけ重要な意味を持つかということが曖昧にされている感もある。ただ新しいシグナリング経路を構築するだけでなく、その生理的意義まで解明していくことが、「G蛋白質シグナルの統合的理解」を達成するための最重要課題であると実感した。ところで臨床的意義という面では、参考にすべき研究内容もあった。例えば、石川先生(横浜市立大学)が、三量体Gαs蛋白質のエフェクターであるアデニル酸シクラーゼ(AC)のサブタイプ特異的な阻害により、心機能に影響を与えずに細胞障害を抑制できる可能性を示された内容は興味深い。特に、ACがあたかも「車のギア」のような働きをしているという発想には驚かされた。シグナリングの強度や時空間的な制御機構については未だ不明な点が多い。エフェクター側からG蛋白質を眺めることで、シグナル強度の調節におけるG蛋白質の新たな役割を見出せるのかもしれない。閉会の挨拶で、堅田先生が話された「Gi蛋白質の本当の役割は、AC抑制ではなく何か他に積極的なシグナル経路があるのではないか」という考えは、私もずっと疑問に感じていることであった。堅田先生もおっしゃっていたように、極性形成におけるGαi蛋白質の役割を解明することが、Gi蛋白質の本来の役割を知る糸口になるのではないかと期待しているとともに、チャンスがあれば深く関わっていきたいとも考えている。最後に、このような有意義な班会議を立ち上げて下さった総括班の先生方には心から感謝したい。



感想記

奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 博士後期課程3年

西村明幸

 平成18年9月5日と6日の2日間、北海道札幌市の札幌サンプラザにおいて、特定領域「G蛋白質シグナル」研究班の平成18年度全体班会議が開催されました。前回行われた平成17年度全体班会議は研究計画8グループからなる少人数の会議でありましたが、今回は公募研究32グループが加わり、会場へ着くや否や、人の多さにまず驚かされました。

 セッションを始めるにあたり、領域代表である堅田先生から、これまでのG蛋白質研究の歴史、G蛋白質シグナル伝達研究の現状と解決すべき問題点についてお話がありました。G蛋白質シグナルの統合的理解を深めていくために本特定領域班が果たすべき役割について全員の共通理解が深まったと思われます。

 研究発表では、それぞれのグループがG蛋白質を分子、細胞、個体、疾患さまざまな視点から研究していることに感心させられました。その研究内容は多岐にわたっており、G蛋白質研究の奥深さを垣間みる事ができました。私自身、これまで高等動物におけるG蛋白質研究に関して触れる機会が多かった事から、植物、ショウジョウバエ、線虫や酵母などにおけるG蛋白質研究は私にとって非常に新鮮なものでありました。それと同時に、生物界全体におけるG蛋白質シグナルの重要性について改めて勉強させられました。

 ショウジョウバエ、線虫を用いた遺伝学的解析が、G蛋白質シグナルの関与する新たな生理機能を個体レベルで明らかにしていく上で非常に強力な実験手法であると感じました。泉先生が発表されましたショウジョウバエ神経幹細胞の非対称分裂時における三量体G蛋白質の役割は、これまでのクラシカルなG蛋白質共役型受容体のシグナル転換因子としての役割とは全く異なるもので、初めて知った時には非常に衝撃を受けた事を覚えています。この新たなG蛋白質シグナル経路の全容、さらには哺乳類細胞の極性形成時においても同様のシグナルが保存されていることが、本研究班により明らかにされていくものと期待しています。

 G蛋白質が種々の脂質修飾を受けることはこれまで知られていましたが、今回これら脂質修飾によるG蛋白質の動態制御、生理的意義について解明を行っている研究がいくつかありました。G蛋白質の活性制御に関して、GEF、GAPを中心としたGサイクルに起因するこれまでの制御機構とは異なり、脂質修飾による新しいタイプのG蛋白質制御機構が明らかになりつつあることが非常に興味深かったです。

 一日目の研究発表終了後には、若手研究者を中心としたポスター発表会が行われ、私もポスター発表をさせていただきました。同世代の研究者の発表を聞くことは非常に良い刺激となり、また私自身の研究に関しましても多くの方々から適切なアドバイスを沢山いただく事ができました。ポスター発表終了後には、評価委員であります宇井先生の乾杯のあいさつを皮切りに、懇親会が行われました。お酒を交えた和やかな雰囲気の中で、普段は話す機会が無い他研究室の方々と研究内容や、実験の苦労話などを大いに語り合う事ができました。この班会議を通して、G蛋白質を研究テーマとするさまざまな研究者の方々と交流する機会に恵まれた事は、これからの研究生活を送る上で大変貴重な経験となったと確信しております。

 最後に、この度はポスター発表会において最優秀賞を賜りました事を大変光栄に思います。今後ともこの賞を励みに、本研究班さらにはG蛋白質研究の発展に少しでも貢献できますよう、研究に邁進していきたいと思います。



九州大学・大学院薬学研究院 薬物中毒学分野 博士後期課程3年 

小野原 直哉

 平成18年9月5、6日にかけて開催されました特定領域「G蛋白質シグナル」の班会議に参加させて頂きました。「細胞内情報ネットワークを統合するG蛋白質」というテーマの下、8人の計画班員の先生方に加え、32人の公募研究の先生方が参加されており、非常に活発な情報交換、研究に対する討論が行われました。今回このような特定領域の班会議に参加させて頂き、またポスター発表で最優秀賞を頂きましてありがとうございました。ポスター発表の際、的確な指摘とご指導を下さいました先生方に厚くお礼申し上げます。

私自身、班会議への参加は2回目になりますが、前回の班会議同様、非常に有意義な時間を過ごすことが出来ました。特に今回の班会議では幅広い分野からの参加があったこともあり、これまでに明らかにされてきた形態形成や細胞内の輸送におけるG蛋白質シグナルの役割に加えて、細胞の極性、分化、及び発生学分野などへの関与を研究テーマにしておられる先生方も多く、今後のG蛋白質シグナルの発展を垣間見ることが出来ました。

口頭発表におきましては、住本英樹教授らの研究グループから、細胞の極性決定時におけるhInscをアンカー分子とした多分子複合体中で、一方にGTP型の、他方にGDP型のG蛋白質が結合する制御機構が報告されました。一つの巨大な複合体の中で、異なるG蛋白質間での極性制御機構が期待され、その生理的意義も含めて今後の展開が大変興味深いものでした。全体的には、短い発表時間の中でも集中して活発な討論が交わされたこと、視点の異なる分野の方々が集まったこと、さらに、高等動物だけでなく、植物、細菌等におけるG蛋白質シグナルの研究をしておられる先生方も参加されていたことから、生命活動全般おけるG蛋白質シグナルの重要性・多様性を再認識することができ、大変勉強になりました。

今回の班会議に参加して、生命現象における多様なG蛋白質の役割について勉強することができただけでなく、先生方の口頭発表や、ポスター発表での明瞭なデータの数々に大変刺激を受けました。G蛋白質研究が発展していくまさにその場に参加出来たことを糧にして、今後の研究に邁進していきたいと思います。

最後になりますが、これからも学士・大学院を含めた若手研究者の班会議への積極的な参加をお願いしたいと思います。自分達が研究する専門分野の最先端に触れることができ、また普段接することの少ない他研究室の先生方や同世代と交流できる絶好の機会でもあります。チャンスがあれば自費でも参加することをお勧めします。