研究成果

発表論文報告(小柳)

概要

HIV-1複製モードの数理科学的解析

HIV-1の感染には、細胞外に放出されたウイルス粒子が新たな標的細胞に感染する“cell-free感染”と、感染細胞が大量のウイルス粒子を標的細胞に接触して直接受け渡す“cell-to-cell感染”という2つの様式(モード)がある。本研究では、培養細胞を用いたウイルス学実験を行う際に、HIV-1のcell-to-cell感染を阻害するために、培養フラスコを揺らしながらウイルス感染実験を行うことで細胞間の接触を物理的に阻害し、ウイルス感染様式からcell-to-cell感染を排除した(右図A)。右図のBの基本再生産数”R0”は、ひとつの感染細胞が生み出す次代の感染細胞数を表す指標であり、Cell-free感染よって生じる感染細胞の基本再生産数をRcf、cell-to-cell感染よって生じる感染細胞の基本再生産数をRccと定義し、実験データの数理科学的解析を行い、コンピュータシミュレーションを駆使して、cell-to-cell感染とcell-free感染が混在する通常の培養系(静置培養)からの取得時系列データと、cell-free感染のみの振とう培養系から取得した時系列データを解析することで、それぞれの感染様式の寄与率を数学的指標により定量化した。本研究成果は、HIV-1の感染を防ぐためのまったく新しい作用メカニズムをもつ抗ウイルス薬の開発を加速させることに繋がることが期待される。本研究は岩見真吾博士(九州大学)との共同研究である。(佐藤佳、岩見真吾、小柳義夫)