班長の挨拶


■A02班.「脳の発達生理機能の研究」

班長 津本忠治(大阪大学大学院医学系研究科高次神経医学部門)

 脳内の複雑な神経回路網は、2段階的プロセスを経て形成されることが示唆されています。すなわち、発生・発達の初期から中期にかけて、遺伝情報によって発現した分子によって神経回路がおおまかに形成されるプロセスと、中期から後期にかけて、いったん形成された神経回路が神経活動によって退行あるいは強化などの修正を受けるプロセスです。最初のプロセスがどのようなメカニズムで生じるかは桝先生を班長とするA01班の研究対象ですが、われわれの班は神経活動に依存した脳内神経回路の変化と機能発達に焦点を当て、そのメカニズム解明をめざしています。この神経活動に依存したプロセスには、三品先生を班長とするB01班が研究される成熟脳の学習・記憶と同じ分子やメカニズムが関与していることも示唆されていますので、B01班とも連携を深めたいと思っています。また、発達脳における過剰神経細胞の細胞死のメカニズムとそのプロセスに関与する因子の解明は老化脳における神経細胞変性のメカニズムとも関係があるかも知れません。研究は思いがけない方向に発展することもありますので、A03班やA04班の研究とも関連することを期待しています。
 今後の神経科学研究にとって種々の新しい方法の併用、活用が重要であることは論を待たないと思われます。例えば、transgenic mouseと新しい蛍光蛋白を使った方法やイメージング、パッチクランプなどの生理学的方法を併用した研究がさらに必要になると思われます。しかし、一人の研究者が最先端の研究手法を多数同時に駆使できるわけでは必ずしもありません。したがって、本研究班では、特定領域研究の長所を最大限に生かして、異なる手法を持つ研究グループ間の共同研究を重視し、推進したいと思っています。
 ただ、脳の入力依存的な機能発達といっても範囲が広過ぎるので、この5年間では、特にヒトで高度に発達し高次脳機能を担っている大脳と小脳を中心に据え、その生理機能発達のメカニズムを主な研究対象にしたいと思っています。具体的な目標としては、

  1. 生後発達期に可塑的であることが古くより知られている大脳視覚野のコラム構造の形成への神経活動の関与メカニズムを明らかにする。
  2. 遺伝子操作の容易なマウスで良く発達した大脳皮質体性感覚野(いわゆるバレル野)の形成と可塑性にいかなる分子がどのように関与しているかを、遺伝子改変マウスと最新の生理学的方法を併用して明らかにする。
  3. 小脳の登上線維とプルキニエ細胞間シナプスが多重支配から単一支配に変わるメカニズムを解明する。
  4. 以上を含めた脳の機能発達の基礎にあるシナプス機能の発達メカニズムを明らかにする。
 上述しましたように、研究は思いがけない方向に展開することがあり、またそのような研究の方が重要なブレイクスルーをもたらすことが往々にしてありますので、現時点で予測不能な新発見が得られることも期待しています。