班長の挨拶


■B02班.「システム回路形成およびその機能の研究」

班長 彦坂興秀(順天堂大学医学部第1生理)

 B02 グループは「神経回路およびその機能の研究」を行う。記憶・学習・思考・意志決定などの精神現象は、反射・知覚・熟練した手続き・推論・感情・動機づけなどの複数の要因によると考えられる。異なる神経回路モジュールがつくる信号としてこれらの要因を捉え、さらにそれらのモジュールの組み合わせとして脳のシステムを捉えることによって、記憶・学習・思考を含めた「こころ」の現象の理解に近づくことを目標とする。各年度の目標を以下に示すが、実際には並列的に研究は進める。
平成 12 年度:行動課題の開発
 さまざまな精神現象を客観的に測定するための行動課題を開発し、心理行動学的実験を行い、その妥当性を検討する。
平成 13 年度:「知覚と意識」の研究
 同時に独立に入ってくる多くの感覚情報がどのように選択され、知覚として意識されるのかを明らかにする。与えられた感覚刺激だけを処理するボトムアップ・メカニズムではなく、さまざまな感覚刺激を評価し、それに「注意」を向けるトップダウン・メカニズムを明らかにする。また注意によって選択された知覚情報が、どのように運動や記憶の制御のために使われるかを明らかにする。また、意識的プロセスと無意識的プロセスを分けるメカニズムは何かを調べ、その意味を考察する。
平成 14 年度:「運動と学習」の研究
 運動の司令が脳の自発的活動によって決定されるメカニズムを明らかにする。本研究では、運動の司令が運動出力になるまでのプロセスではなく、運動の最終司令がつくられる前のプロセスに特に研究の重点を置く。外部からの信号によって指示された行動ではなく、被験者が自分自身で行動を決定するプロセスを調べ、そのメカニズムを明らかにする。限られた脳の領域ではなく、大脳皮質連合野・大脳基底核・小脳・大脳辺縁系・脳幹をすべて視野に入れた研究をめざす。
平成 15 年度:「記憶と思考」の研究
 記憶がどのようにニューロン情報として獲得されるかだけでなく、その情報がどのように使われるかを明らかにする。特にそれが思考や推論の材料として使われるプロセスを調べる。作業記憶・宣言的記憶・手続き的記憶などの記憶システムの相互の関係を調べることによって、脳を特徴づける「並列処理」の意味を明らかにする。さらに、これらの記憶情報(知識)がいかに内的に操作されるかを調べることによって、思考や推論の実験的研究を可能にする。
平成 16 年度:「感情と社会」の研究
 感情とそれに関わる精神現象を、特に対人(対個体)関係さらに社会のなかの現象として捉え、そのメカニズムを明らかにする。感情を主観的な単なる現象として捉えるのではなく、脳のシステムのなかでどのような意味(有用性)をもっているかを明らかにする。さらに感情の研究は、社会的関係の研究につながる大きな意味をもつ。社会的関係の基本は、心と情報の共有である。それがあって初めてコミュニケーションが成り立ち、言語が生まれると考えられる。本研究では、単に道具として言語を扱うのではなく、前言語的コミュニケーションのメカニズムからの解明をめざす。