病理学の研究について

私たちが考える病理の研究

唐突ですが、病気は局在する、というのが病理学の根本的な考え方です。病理学は、本来この局在する病変から情報を抽出し、病態との関連を考える学問として発展してきました。病変からの情報抽出には、視る技術の発展が重要であり、病理学の歴史は「かたち」を可視化する歴史といっても過言ではありません。最近では、この可視化の技術は物質や分子、さらには遺伝子までも同定できるようになりました。

ヒトの病気がどうして起きるのか、という問いはwhyとhowの2つの要素を含んでいます。Whyは、病気のそもそもの原因です。例えば”タバコ”は”がん”の原因である、の場合タバコがwhyになります。一方のhowは、どの様に病気が進行して臓器や個体の機能低下に至るのか、すなわちタバコを吸ったらどうしてがんになるのか、という意味です。つまりhowは原因(why)と結果(病気)の因果関係を説明することであり、病理学は、このhowに重きを置いた学問です。

ヒトの体は、多くの臓器とその小さな機能単位である器官からなり、それぞれが複雑な機構によって相互に助け合い、生体としての恒常性(正常に機能すること)が維持されています。そして、この恒常性が失われるのが病気です。恒常性の維持は、臓器によって異なっていますが、恒常性が失われたために起きる現象は共通しています。病気を考えるときには、この共通の現象、いわゆる病気が進んでいく基本ルールを知っておく必要があります。これが病理学総論という分野です。たとえば、肺炎と虫垂炎は、臓器は違いますが“炎症”という現象から同じように理解できます。この病理学総論には、循環障害、炎症、細胞障害、再生、創傷治癒、免疫アレルギーなどが含まれていて、病理学の発展が積み上げてきた、病気を理解するエッセンスがぎっしり詰まっています。

さて、私たちは腎臓病の研究をしています。 腎臓病にはたくさんの種類がありますが、多くは原因不明です。従って抜本的な治療方法は見いだせていません。もちろん薬物療法が奏功する場合もありますが、慢性に経過する場合には治療法は少なく、まずは早期発見、そして腎臓に悪いと思われる因子を除く(高血圧、喫煙、メタボ、糖尿病など)ことにとどまっているのが現状です。沢山の種類がある腎臓病に対して、それぞれの原因を明らかにし、治療法を考えるということは、なかなか困難な作業です。腎臓は再生しにくい臓器の筆頭と考えられていることも、治療法開発のネックになっています。

私たちの研究室では、腎臓病の種類に関係なく、腎機能が低下する共通の原因を特定し、その因子がhow、つまりどのように腎臓を蝕むのか、について因果関係を明らかにするために、病理学的に研究しています。この研究は25年続けていますが、最近なかなか面白いことが分かってきており、少しだけ興奮しています(笑)。詳しくは、研究テーマの部分をご覧ください。

研究は、多くの困難を伴います。しかし、確かな目的と方法論を以てこれに臨めば、とても面白い作業になります。考える、そして理解する、その過程をプレゼンテーション(論文)するという作業は、十分ワクワクさせてくれます。この研究室では、多くの学生と楽しくディスカッションしながら、いろいろなスキルを学んでいます。もちろん、一番勉強させてもらっているのが私自身だと思っていますので、研究室の皆にはとても感謝しています。