研究 プロジェクト 「PDF」



低酸素応答プロジェクト

現在、日本人の死因は悪性腫瘍・虚血性心疾患・脳血管疾患が上位を占め、なかでも悪性腫瘍の割合は約3割に達し死因の1位となっています。これらの疾患に共通してみられる現象として、局所における低酸素状態を伴う点が挙げられます。生体にはこのような低酸素に応答する制御機構が備わっており、その中心的役割を担っているのが低酸素応答転写因子:HIF (hypoxia inducible factor)です。HIFは酸素が十分存在する環境下では、分解による不活化により活性が抑えられていますが、低酸素環境下では分解を免れ転写因子として機能するという特徴を有しています。この分子作用により低酸素環境下で必要とされる標的遺伝子の転写を速やかに活性化することができます。

現在までにHIF遺伝子は3種類存在することが報告されており、全身性に発現しているHIF-1α、血管内皮細胞で主に発現しているHIF-2α、抑制性に働くHIF-3αとそのバリアントであるIPAS (inhibitory PAS protein)があります。当研究室では、これらの分子機能解析はもちろんのこと遺伝子改変マウスを用いた解析によって実際に生体内で起きているHIFの作用機構解明を行っています。


組織幹細胞プロジェクト

組織幹細胞は、生体内のあらゆる組織に存在し、複数の細胞種への分化能や自己複製能を併せ持つ細胞である。近年、ES細胞やiPS細胞が発見され注目されているが、一方で倫理的問題や安全性などの超えるべきハードルも多く残されている。組織幹細胞は、自家移植が可能なことから、このようなリスクは低く、再生医療を行うにあたっての細胞供給源として注目されている。しかし、組織幹細胞は患者から採取するという性質上、疾患背景や性別、年齢などの多くの環境因子がその性質に影響を与えることが報告されており、有効な再生医療を行うにはこれらの性質を解析し、最適化させたうえで使用することが求められる。

本研究室では、筑波大学整形外科、循環器外科などと協力し、多検体かつ複数ソースの間葉系幹細胞(MSC: Mesenchymal Stem Cell)や血管内皮前駆細胞(EPC: Endothelial Progenitor Cell)の生物学的特徴や組織修復のメカニズム解析を行い、得られた研究成果の速やかな臨床応用を目指し研究を行っている。


がんと幹細胞プロジェクト

Coming soon。


老化と神経再生プロジェクト

緑内障は、眼球と脳を繋ぐ視神経が障害を受け、視野が徐々に欠損する疾患である。一度喪失した視野は回復させることが出来なため、最終的には失明に至る場合もあります。世界の緑内障患者は、約7600万人に達し、2040年には1億人を超えると言われています。緑内障で障害される網膜神経節細胞は、網膜の最も内側に存在し、光情報を脳へ伝達する視神経の軸索を形成する重要な役割を担っています。緑内障に対する治療は、眼圧を下降させる事が唯一証明されている有効な治療法であるが、眼圧下降療法は進行を抑制するだけで、一度失われた神経は回復しないため、欠損した視野を回復させる事はできない為、再生医療の技術を用いた治療が待ち望まれています。私たちは、福田慎一准教授、山下年晴助教、Donny Lukmantoポスドク、Tran Thi Hang大学院生を中心に再生幹細胞生物学研究室(大根田研)のチームの一員としてダイレクトリプログラミングという再生医療の技術を用いて網膜神経節細胞の再生を目指して研究しています。多能性幹細胞の段階を経ずに直接的に細胞の分化を転換するダイレクトリプログラミングが近年注目されています。魚類や鳥類において、網膜に損傷が生じると,ミュラーグリア細胞がリプログラミングを引き起こし,網膜内の神経細胞へと分化することが知られています。哺乳類ではこの経路が遮断されていると考えられていましたが、幼弱なマウスにおいてもダイレクトリプログラミングされる事が報告されました。私たちはこの技術を緑内障の治療に応用できるように日々基礎実験を重ねています。