筑波大学医学医療系医工学研究室 研究テーマ

筑波大学大学院 人間総合科学研究科 生命システム医学専攻
医工学/再生医工学/Tissue Engineering/人工臓器

再生医工学を応用した人工臓器

バイオ人工臓器
過去4半世紀のあいだに、人工臓器をはじめとする医工学技術は急速な進歩を遂げています。人工腎臓、心臓ペースメーカなどは確立された人工臓器として、世界中で数百万人にも及ぶ患者の救命、延命に役立っています。しかし、生体臓器の機能があまりにも多様で複雑であるために、現代の先端技術をもってしてもその機能を完全に代行できない臓器も少なくありません。肝臓をはじめとする代謝系臓器、血管系、造血系はその典型であり、人工的な手段のみで生体機能を模倣することには限界があると考えられることから、人工臓器の素材として生物組織を利用する、いわゆる「バイオ人工臓器」の必要性がクローズアップされてきま した。
 バイオ人工臓器を開発するためには、対象とする臓器・組織の機能を体外において発現・維持する技術を確立することが不可欠です。最近では、再生医工学的手法を用いることで、細胞の分化・増殖をコントロールする、あるいは細胞を立体的に培養(三次元培養)する技術が進歩していますので、医工学グループでは、これらの培養技術を利用して、生体臓器の機能に近い性能を発揮できるようなバイオ人工臓器を開発するための基礎研究を行っています。特に、人工臓器が「一種の化学装置」であることに鑑み、装置工学(プロセス工学)と再生医工学の視点の両方を活用して、人工臓器の実用化に応用できる基盤技術を確立することを目指しています。
Strategies
培養細胞としては、肝細胞、造血系細胞、血管内皮細胞を主な対象として用い、下記のような研究を行っています。
  1. 分化・増殖を制御する因子とメカニズムの探索
  2. 分化・増殖を制御できる新たな培養方法の開発
  3. 再生医工学研究に不可欠な周辺基盤技術(細胞の分離、保存、播種方法)の確立
  4. 人工臓器モジュールの開発に向けた大量培養法、長期培養法の検討
  5. 培養細胞の機能を評価する方法の開発

培養肝細胞の機能再生

多孔質の材料を用いて、世界最高水準の高密度培養を
重症肝不全の有効な治療法は、肝移植に限られています。そこで、肝移植までのつなぎとして一時的に患者の肝機能を代行するバイオ人工肝臓が欧米では臨床応用されています。しかし、わが国では移植が普及していないことから、患者自身の肝臓が再生するまでの長期間にわたって肝機能を代行できる、高性能なバイオ人工肝臓の開発が切実に求められています。
 本プロジェクトのこれまでの研究で、PVFという多孔質の培養基材を用いることで、世界最高レベルの細胞密度で肝機能を維持しながら肝細胞を培養できる方法を確立し、新しいタイプの人工肝臓の原型となるリアクターの試作に成功しました。これによりブタ肝細胞を世界最高レベルの高密度で培養することが可能となり、肝不全モデル動物を有効にサポートすることができています。また、未分化な胎仔肝臓細胞を細胞源とし、この細胞の増殖と分化をコントロールすることで、長期にわたって使用できる高性能なバイオ人工肝臓を開発するための研究も精力的に行っています。

バイオリアクター

造血幹細胞の体外増幅

人工骨髄で造血機能をよみがえらせる
 白血病や再生不良性貧血に代表される重篤な血液疾患に対する有効な治療法として、骨髄、末梢血や臍帯血由来の造血幹細胞移植があげられます。しかし、この方法には、白血球の型が一致するドナーを見つけることが困難であり、移植に十分な造血幹細胞数を採取することも難しいという問題があります。
 そこで、三次元培養技術を造血系細胞の培養に応用し、体外で造血幹細胞を増幅する研究を行っています。これらの研究では、造血系細胞と共培養するストローマ細胞(間質細胞)に様々な処理を加えることで、造血前駆・幹細胞を良好に増幅させることに成功しました。処理条件や培養条件を改良することで、さらに高い増幅率で細胞を増幅することを目指しています。
 この成果は、2015年2月のExperimental Hematology 誌の表紙になりました。

新生血管の機能再生

新しい血管を作り機能を評価する
人工血管の臨床使用は目覚しいものがありますが、直径3ミリ以下の小口径のものには未だ満足できるものがありません。そこで、血管壁を内張りしている血管内皮細胞が種々の傷害から修復・再生される過程を再現することにより、種々の血管病変の治療へと応用できる人工血管の開発を目指しています。
また、血管機能を直接的に定量的評価する試みの一つとして、生きた微小血管網を直接顕微鏡下に観察することを行っています。

腫瘍血管 微小血管内の白血球

主な業績

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