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研究テーマ

外科代謝・栄養グループ

 外科代謝・栄養グループの指導教官は寺島秀夫です.現在,テーマを大きく2つに分けて,「消化管吻合部創傷治癒」,「侵襲期における栄養療法」に係わる先進的な研究を行っています. いずれの研究テーマにおいても,ラットを用いて,人間に施行する手術と同様の手術をラットに施行します.ラットでは,ルーペを用いた非常に微細な手術手技が必須であり,臨床をはなれた大学院在学中においても手術手技を大いに向上させることができます.さらに,研究テーマが臨床の現場での疑問に基づいて設定されているので,研究の結果を直ちに臨床にフィードバックさせることができます.まさに,“Translational research”を実践しているのです.外科代謝栄養と創傷治癒といった領域は,外科医にとって教養科目に位置付けられます.侵襲が大きく,難易度が高い手術を着実に成功に導くためには,これらの領域に精通していることが不可欠であると言っても過言ではありません.若き外科医の皆さん,私どもとともに一緒に研究しましょう!!

 

研究テーマ(1):「消化管吻合部創傷治癒」

 消化管吻合部の創傷治癒のメカニズムを研究し,治癒を加速化させる術後管理について研究を行っています.現在までの研究成果として,従来の外科医の常識を覆す知見を得ています.従来,消化管吻合部の創傷治癒が完成するまでは極力安静にしておくべきとする考えが主流でした.このため,上部消化管手術を受けた患者は吻合部の安静を保つために手術後数日間にわたり経口摂取を禁じられ,水すら飲めないという不自由・苦痛を強いられていました.しかし,私どもは術後の絶飲食療法は,単なる慣習に過ぎなかった事実を世界に先駈けて実証しました.

I.術後早期経口栄養摂取は,絶飲食下の静脈栄養管理に比して,上部消化管吻合部の創傷治癒を有意に促進する.Fukuzawa J,et al. World J Surg 31:1234–1239.2007

II.術後早期経口摂取が吻合部の創傷治癒を有意に促進するメカニズムは主として線維芽細胞に対するMechanical loadingによる.Tadano S. et al. J Surg Res 169:202-208.2011

 上記の実験結果を踏まえて,創傷治癒を促進するメカニズムは,Nutrient による “Trophic effect”なのか,それとも, Liquidの摂取による “Mechanical loading” なのか,検討しました.実験系は,先の2群に,TPN管理下に胃瘻から生食を注入するTPN+saline群と,TPN管理下で胃瘻から蒸留水を注入するTPN+water群を加え,計4群を作成し,同様に検討しました.臨床的には,TPN+saline群は「術後早期経口補水液摂取モデル」に,TPN+water群は「術後早期飲水モデル」に相当します.


進展圧縮負荷細胞培養装置
 上記の結果より,吻合部の創傷治癒促進のメカニズムとして,消化管内の流体による機械的刺激“Mechanical loading”が関与していることが示唆されました.そこで,in vitroの実験として,ラット胃から分離培養した線維芽細胞に対して伸展圧縮負荷細胞培養装置を用いてストレッチ刺激を加えて,シグナル応答を解析しました.その結果,線維芽細胞は機械的刺激に反応し、増殖、コラーゲン合成のシグナルが発現することが確認されました.
 以上より,今までの常識に反して,消化管吻合部の創傷治癒プロセスを促進するためには,絶飲食は逆効果であり,適切なMechanical loading(機械的な荷重)が加わることで,早期経口摂取は消化管吻合部の創傷治癒を促進するのです.

 

III. 多血小板血漿による吻合部創傷治癒の促進効果

 血小板は炎症期の最も初期段階に働き,その働きは傷害部位に血小板が誘導された後,様々な増殖因子を放出することでコラーゲンや血管の新生が促され創傷治癒は完成します.この血小板を利用し創傷治癒を促進させる方法として多血小板血漿(Platelet-rich plasma;以下PRP)が存在します.
 これまでPRPは口腔外科分野,整形外科分野,形成外科分野に応用されていましたが,当研究室ではそれを消化管吻合部に応用するための基礎実験を行っています.PRPを生体糊として吻合部に塗布することで吻合部の創傷治癒は促進されることを当研究室では実証しました.
消化管吻合部創傷治癒について

 消化器外科手術において消化管吻合部における吻合部リークは術後短期的なmortality, morbidityを損なうにとどまらず悪性腫瘍手術後の長期的生命予後を脅かすものです.近年,吻含技術は著しく向上していますが,吻合部リークは未だに一定の頻度で発生しており,革新的な予防法の開発が必要であることは論を待たない状態です.吻合部創傷治癒にはコラーゲンの増生が重要であり,可能な限り早期に吻合部局所のコラーゲンを新生,増加させることが,吻合部リークを回避する上で有力な一手段となり得ます.そこで私どもが着目したものがPRPです.血小板は各種growth factorの"storage vehicle"であることからPRPを用いれば吻合部局所において各種growth factorを強化し,コラーゲンの産生を早期に誘導することが可能になると考えられ本研究に着手しました.この技術は将来,縫合不全を予防するための自己生体糊として期待されています.

 

研究テーマ(2):「侵襲期における栄養療法」

 現在,エビデンスに基づいた周術期における最適な栄養組成は明らかにされてはいません.従来は重症患者では消費カロリーが亢進している事を根拠として,基礎代謝量の1.2~2倍といった多くのカロリーが投与されるべきであるとされていました.しかし2003年,Krishnanらは,ACCP (American College of Chest Physicians)ガイドラインの推奨投与エネルギー量(25kcal/kg BW/day,全身性炎症反応症候群“SIRS”の場合27.5kcal/kg BW/day)は過大評価の可能性があり,重症患者では目標値の33~66%,9~15kcal/kg BW/dayが最も予後良好であったと結論を下し,非常に重症な患者では過剰な栄養サポートが有害となる危険性を強調しています.
 侵襲下でのoverfeedingによる有害事象の解明は未解決であり,当研究室ではラット腹膜炎モデルをもちいて,「侵襲下でグルコースを中心とした高カロリー投与が炎症を増幅する」との仮説を実証する実験を進めています.