遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオ−マ症候群(HPPS)とその原因、および遺伝子検査の目的と意義

褐色細胞腫(pheochromocytoma)は副腎髄質という臓器から発生するカテコ−ルアミンと呼ばれる血圧を上昇させるホルモンを多量に分泌する腫瘍です。副腎髄質以外の傍神経節から発生する腫瘍を特に傍神経節腫(paraganglioma:パラガングリオ−マ)と呼び、この場合はカテコ−ルアミンはあまり分泌しませんが、腫瘍自体が大きくなることで近傍の神経や臓器を圧迫し神経麻痺などの症状を来すことがあります。副腎髄質・パラガングリオ−マは特定の家系に多発する場合があることが以前から知られていました。最近、ミトコンドリア(エネルギー生産を行うほとんど全ての生物の細胞に含まれる細胞小器官)の内膜に存在するコハク酸脱水素酵素(複合体U)の遺伝子、SDHBSDHDSDHCの変異が遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオ−マ(Hereditary pheochromocytoma/ paraganglioma syndrome:以下、「HPPS」と呼びます)を引き起こすことがわかってきました。

HPPSの患者さんの家族歴を調べると、家系内にパラガングリオ−マにかかった人が多い(特に頭頚部や腹部)50才以下の若い年齢で褐色細胞腫・パラガングリオ−マにかかる同時に複数の場所にできたり二度も三度もかかる、骨など褐色細胞腫・パラガングリオ−マが本来発生しない場所にできる(遠隔転移)、などの特徴があります。HPPSは遺伝性疾患であり、常染色体優性遺伝という形式で遺伝します。これは両親のどちらかがHPPSである場合、その原因となる遺伝子の異常が性別に関わり無く50%の確率で子供に引き継がれるということです。最近の研究でHPPSにも遺伝子の変異の種類により様々な亜型が有ることが判明してきました。SDHB の変異は腹部のパラガングリオ−マが多く高率に遠隔転移を引き起こします。SDHDの変異は頚部のパラガングリオ−マを多発性に起こすようです。SDHCの変異は専ら頸と頭のパラガングリオ−マのみ発症するようです。しかし、SDHC報告は少ない上に、変異の頻度も非常に低いようです。

私たちは上記のような発症・症状の患者さんは、まずSDHBSDHDを調べるべきと考えます。そして変異が認められた場合に適切な予防と治療を行えるようにしたいと考えています。つまり、このような研究を通じて日本人におけるHPPSの正確な頻度と特徴を調査したいと考えています。あなたがHPPSの遺伝子検査を受けられて変異が見つかった場合、HPPSの診断は確実なものとなりますので、褐色細胞腫・パラガングリオ−マの検診を定期的におこなうことが早期発見に役立ち、適切な治療を行なうことが期待できます。また、あなたの遺伝子検査の結果は、あなたのご兄弟やお子さんが同じ遺伝子の変異を持っているかどうかを知り、将来腫瘍にかかるリスクを予測するために役立ちます。

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