当院の診療内容(医療関係者向け)

診療グループ

免疫

高田 英俊、福島 紘子、藤山 聡、今川 和生、竹内 秀輔、穂坂 翔、稲葉 正子、森田 篤志、永藤 元道、原 モナミ

原発性免疫不全症、自己炎症性疾患、自己免疫疾患など免疫が関連する疾患は臨床と研究の距離が近く、bench to bedsideが実感できる分野であると思われます。

・小児科免疫グループでは、日常的にフローサイトメトリーや遺伝子解析などの手法を用いて患者様の病態解析を行い、これまでに多くの成果を得ています(業績

・原発性免疫不全症患者の感染予防に関して、薬剤予防内服や予防接種の実態を調査するための全国調査を主導しています(現在進行中の臨床試験

・研究面では、当院皮膚科グループや近隣医療機関と連携し、重症アトピー性皮膚炎の病態解析や遺伝子解析を行っています。また、産業総合技術研究所との共同研究で、遺伝毒性を排除した新規遺伝子治療法の開発を行っています。他にも、国立環境研究所と共同で、胎児期・新生児期に特有の免疫状態を解明するための研究や、小児期発症炎症性腸疾患の免疫学的解析に関する研究、小児食物アレルギーと腸内細菌叢の関連に関する研究などを行っています。

肝・消化器

今川 和生、森田 篤志

はじめに:新生児から青年期にかけて、それぞれの年齢層でみられる消化管疾患・肝胆膵疾患の標準的な診断方法と治療法を提供しています。また、専門診療と臨床研究が繋がるトランスレーショナルリサーチを意識して取り組んでいます。

消化管疾患:慢性腹痛や消化性潰瘍、難治性の便秘症や下痢症、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)、消化管アレルギー・好酸球性消化管疾患などに対して消化器内視鏡検査を積極的に実施しています。さらに、免疫異常症に伴う腸炎、消化管機能不全など、まれな疾患にも対応しています。

肝胆膵疾患:胆道閉鎖症、遺伝性胆汁うっ滞性疾患(アラジール症候群、シトリン欠損症、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症など)や、自己免疫性肝炎、原発性硬化性胆管炎、代謝性疾患(ウイルソン病など)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、遺伝性膵炎、さらに門脈血行異常症(特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症など)も診療しています。これらの患者さんに対して、エコーガイド下経皮的肝生検で精査しています。超音波内視鏡(EUS)や内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)は消化器内科の先生方とも連携して実施しています。現時点において、当院では小児の肝移植を実施しておりません。

臨床研究:診療に直結する病態解析研究を中心に実施しています。特に肝疾患や炎症性腸疾患の免疫解析や遺伝子解析、生化学分析を得意としています。胆汁うっ滞性肝疾患の全国レジストリ遺伝子解析拠点として活動しているほか、原因不明の小児急性肝炎や小児期発症炎症性腸疾患の多施設共同研究にも積極的に参画して解析検体を受け入れています。

神経・筋

大戸 達之、田中 竜太、榎園 崇、田中 磨衣、上野 裕一、角田 侑以、岩崎 友哉

薬剤抵抗性てんかん、重症心身障碍児、知的発達症、奇形症候群、代謝性疾患(ミトコンドリア病など)、神経発達症などの診断・治療を行っています。茨城小児神経症例検討会やいばらき発達障害懇話会などを定期的に開催し、小児神経学の臨床研究・教育を積極的に行っています。

また研究面では、小児神経疾患を対象とした微細神経学的徴候に関する臨床研究、抗てんかん薬に関する臨床研究、エコチル調査、奇形症候群に関する遺伝学的検討、小児用HALの開発に関する臨床研究などを行っています。

代謝・内分泌

〈当グループでの研修内容〉

外来3ヵ月を1クールとして、最初の1クールでは小児内分泌・代謝の標準的な対応を一通り身につけ、第2クールでは標準的な治療と患者さんごとの個別化について理解し、第3クール以降には小児期の内分泌状態最適化による成人期の予後改善を追及する診療姿勢を習得します。

診断・治療技術の習得に要する期間は

1か月:下垂体ホルモン分泌刺激試験、経口ブドウ糖負荷試験、甲状腺ホルモン補充療法、卵巣ホルモン補充療法、基礎インスリン補充療法

2か月:水制限試験、成長ホルモン補充療法、精巣ホルモン補充療法、副腎皮質ホルモン補充療法(中枢性に対して)

3か月:外来MRI撮影、強化インスリン療法+フラッシュグルコースモニタリング、DDAVP補充療法、ゴナドトロピン補充療法

4か月:新生児スクリーニング甲状腺初診、インスリンポンプ+フラッシュグルコースモニタリング

5か月:新生児スクリーニング副腎初診、ACTH抑制療法

6か月:新生児スクリーニング代謝初診、TW2法による骨年齢判読、インスリンSensor Augmented Pump療法

9か月:思春期ステージ診断、2型糖尿病の経口薬治療

12か月:小児がん治療後の下垂体・視床下部障害の治療

15か月:ゴナドトロピン抑制療法(リュープリン)、Kauffman療法

18か月:性分化疾患の初期診断、成長ホルモン補充療法の終了決定

24か月:2型糖尿病のインスリン療法

〈研究〉

①1型糖尿病は患者教育が最も重要なので、新規教育手法の開発を研究題材としています。全国プロジェクトである小児インスリン治療研究会において認知・心理班を担当しており、筑波大学芸術学群と共同で小児糖尿病教育マンガを作成し、クラウドファンディングで資金を得て印刷・郵送し、教育機関などへ配布するなどの啓発活動を行っています。

②外来が診療の中心となる分野なので、遠隔診療・オンライン診療などがこの分野で質の高い診療ができるかを検討する研究をしています。筑波大学発ベンチャーの遠隔健康医療相談ツールの事業者と共同でプラットフォームを開発しています。

③日本小児内分泌学会が行う遺伝子診断を含む多施設共同研究に参加しています。内分泌分野の難病診断では、全国規模で臨床家による臨床診断(phenotyping)と検査・研究機関による遺伝学的解析(genotyping)の共同作業により診断を確定しており、紹介初診患者を診る医師はgate openerとしての役割を果たします。

循環器

村上 卓、石踊 巧、石川 伸行、林 立申、野崎 良寛、嶋 侑里子、矢野 悠介、出口 拓磨、堀米 仁志、髙橋 実穂

筑波大学小児科循環器グループでは先天性心臓病を中心に、川崎病、心筋症などの後天性心疾患、不整脈など子供にみられる心臓病すべてを対象として最新の診療と研究を行っています。その対象は胎児から成人に及び、内容も臨床面では心電図、心エコー、心臓CT、心臓MRI検査、心臓核医学、心臓カテーテル検査などを用いた血行動態評価に留まらず、カテーテルを用いた血管病変や不整脈の治療まで多岐にわたります。研究面では、遺伝子診断をはじめとした基礎研究から、実際の患者さんを扱う臨床研究まで幅広く行っています。現在の重点研究について以下に記します。

1)遺伝性心臓病の診断と治療に関する研究
私たちは出生前診断の心臓病の検査として、胎児心臓超音波検査を高い水準で行い、出生後の管理、治療に役立てることを行っています。また、一部の心臓病、特に遺伝性不整脈については原因遺伝子が特定されるものも増えてきましたが、まだ一般に行なわれるものでは明らかにならないものもあり、多くの遺伝子を解析できる次世代シークエンサーを用いた検索を行っています。さらに精度の高い診断ができれば、治療につながることも期待され、心臓病の予後改善に貢献することが期待されています。

2)心臓病患者の運動や座位行動など生活スタイルに関する研究
医学の進歩に伴って先天性心疾患をはじめとした小児期発症心臓病患者さんの長期予後は改善しています。これらの患者さんの生命予後だけでなくさらなるQOL向上に関して、運動や生活習慣に関する研究を行っています。なお、この研究は成人先天性心疾患診療をする筑波大学 循環器内科の医師らと共同して行っており、長期的なデータを集めていき、生命予後だけでなく、学校生活を超えて就労、妊娠などについて長期的に改善していけるようにと取り組んでいます。

3)先天性心疾患の疾患理解に関する3Dプリンタ、3Dイメージを用いた研究
先天性心疾患は非常にバリエーションが豊富で、教科書に挙げられるもので100種類以上あります。また患者さんによって形態のバラツキや複数疾患の合併もあるため、複雑で理解が困難になっています。これは患者さんや患者さんの家族だけでなく、普段先天性心疾患の診療をしない医療者にとっても言えることで、疾患を理解する効率的なツールが求められます。近年3Dプリンタや3Dイメージがより簡便に利用できるようになってきており治療に役立てられる機会が増えてきており、これらを学習や教育に活用する方策を探る研究を行っています。

血液・腫瘍

福島 紘子、鈴木 涼子、八牧 愉二、穂坂 翔、稲葉 正子、長友 公美絵、小林 千恵

当院は厚生労働省指定の小児がん診療施設として、白血病、リンパ腫などの造血器腫瘍や、脳腫瘍、神経芽腫、骨軟部腫瘍、肝腫瘍、腎腫瘍、網膜芽細胞腫などの固形腫瘍の診断・治療を行っています。陽子線治療センターを有していることから、県内外の小児がん診療施設と連携して小児に対する陽子線治療にも積極的に取り組んでいます。日本小児がん研究グループ(JCCG)の参加施設として多施設共同臨床試験に参加しており(http://jccg.jp/)、治療の一環として神経芽腫など悪性固形腫瘍に対する自家末梢血幹細胞移植も行っています。また、当院はがんゲノム医療拠点病院であり、遺伝性腫瘍などがんゲノム情報に基づく診療およびカウンセリングを行っています。

造血不全症や凝固異常症などの非腫瘍性血液疾患の診療も行っており、血友病は地域中核病院として地域診療所と連携した診療体制を構築しています。

小児血液・がん専門医研修施設として後進の指導も行っており、後期研修終了後に小児血液腫瘍分野のサブスペシャリティの研鑽を積むことが可能です。

<現在進行中の研究内容>

血友病の新規遺伝子治療法の開発、小児がん患者の胚細胞系列の遺伝子解析、小児がんに対して陽子線治療を施行した患者様の晩期合併症や生活の質の調査、小児がん患者の免疫能の回復に関する研究を行っています。

新生児

宮園 弥生、齋藤 誠、藤山 聡、金井 雄、日高 大介、竹内 秀輔、永藤 元道、中村 由里、花木 麻衣、岡田 侑樹、松本 貴吏、森島 直子、田中 優人

当院は2005年に総合周産期母子医療センターに認定され、茨城県の周産期医療の中核を担っています。新生児グループは主にNICU(9床)、GCU(18床)、新生児室に入院する新生児の診療に当たっています。2024年8月にはNICU、GCU病棟の移転、増床(NICU 15床、GCU 24床)が予定されています。

当グループの特徴は、小児科内の各診療グループや小児外科、心臓血管外科、脳神経外科など多様な科と連携を取りながら診療し、早産児だけでなく、非常に多彩な疾患に対して高度な集学的治療を行うことができることです。胎児診断される症例も多く、産婦人科と情報を共有しながら最適な分娩時期の決定に関わり、出生直後からの全身管理を通じて様々な疾患や治療技術を経験することができます。さらに筑波大学小児科全体でも盛んに行われている超音波検査を様々な疾患の診断だけでなく、新生児蘇生の場にも広げて、より精度の高い診断、治療に結びつけていることも当グループの特徴です。

キャリア形成として、当院は小児科専門医取得後に周産期(新生児)専門医を取得するための研修が可能な基幹施設にも指定されています。また、筑波大学附属病院は日本周産期新生児医学会の新生児蘇生普及事業(NCPR)のトレーニングサイト(全国22施設)に認定されており、小児科、産科医師のみならず、医学生や助産学生、救急救命士など周産期にかかわる全ての人材を対象に新生児蘇生法講習会を積極的に開催し、周産期医療の向上に貢献しています。

研究については、超音波関連、病院前救急、早産児の栄養関連などの臨床研究のみならず、極低出生体重児にみられる溶血性疾患の病態解明、早産児特有の免疫に関連した基礎研究、細胞レベルに注目した慢性肺疾患や未熟児動脈管開存症の病態・治療法に関する研究、さらに保育器内のアルコール濃度に関する研究、新たなモニタリング法の開発など多岐に渡ります。

救急・集中治療

榎本 有希、城戸 崇裕、奥脇 一、矢板 克之

当院は小児救命救急センターの指定を受け、8床のPICUは2022年から専属の小児科医を配置したセミクローズド体制となっています。他診療科・小児科内の他診療グループと連携し、年間300例程度のPICU入室者に対する高度医療、県内の重症小児に対する救急医療を提供しています。また当グループの特色として、若手には積極的に国内留学などの経験を積めるようにしています。さらに研究面では臨床疫学研究に力を入れています。

具体的な重点研究項目としては

(1)小児せん妄の診断と治療

ICUせん妄や薬物離脱症候は、近年の集中治療学分野において非常に注目されている項目です。当院ではこれまで、国際的に用いられているせん妄等のスクリーニングツールの日本語版(※)を作成し、実践研究の報告を行うことで全国のPICUにさきがけて小児せん妄の知見を積んできています。現在は、国内の他PICUと連携してより大規模な疫学調査を推進しており、また生化学的な検討や予後との関連解析を行うことで、小児のICUせん妄の病態解明や管理方法の進歩に貢献したいと考えています。

※小児アセスメントツール:

http://www.md.tsukuba.ac.jp/clinical-med/e-ccm/research/PedTool/pedtool.html

(2)重症病態の小児に関連したレジストリ解析

データ通信技術の発展に伴って、「ビッグデータ」を用いた研究が、医療のみならず、科学の幅広い分野で実践されるようになりました。医療においても、大規模な患者レジストリや、健康診断データなどを用いた研究報告が増えています。しかし日本国内では未だ、こういった研究を行うデータベースの基盤は未発達であり、特に小児科領域では研究者がほとんどいないのが現状です。

当院は国内のICU,PICUで構築されるレジストリへ参加しデータ提供を行うとともに、集積されたデータを解析しています。また、それ以外にも全国規模の医療レセプトの解析や、公開された論文のシステマティックレビューなどの研究を通して、特に重症や救急病態に直面した小児に関連した疫学像の解明や、よりGlobalな視点から見た場合の治療選択の影響を検討しています。当グループで作成した論文が欧州の蘇生ガイドラインに引用されるなどしており、研究成果は国内外の医療政策に直接資することを目標としています。

(3)小児救急病態における超音波検査の推進

放射線被曝を伴うCT検査や、鎮静が必要なMRI検査を選択しにくい小児年齢の患者においては、超音波検査が非常に有用です。当院には全国規模の小児超音波セミナーの講師を務めるスペシャリストが複数おり、国際的にみても、日常診療で非常に高頻度かつ高レベルで超音波検査を活用しています。超音波機器の発達もあり、従来に比べて画像評価としての質が向上しているだけでなく、肺や消化管、脊髄など、従来は超音波では評価不能とされていた部位の評価法も確立されつつあります。経験症例の分析を行い発表することで、小児に対する超音波検査の発展に貢献したいと考えています。

立ち上がったばかりのエネルギーを感じながら一緒にこどもの集中治療をよくしたい!

臨床を続けつつ、大学院で研究もしてみたい!という方、是非一度、見学にきてください。

PICU websiteはこちら↓

https://tsukuba-eccm.jp/picu/