NKT細胞を介した関節炎制御に関する研究

Natural killer T (NKT) 細胞は、NK細胞とT細胞の両方の特徴を有したユニークなリンパ球であり、感染免疫、アレルギー、自己免疫、腫瘍免疫など多様な免疫応答に重要な役割を果たすことが知られています。私たちの研究室では、NKT細胞の持つ免疫制御能に着目し、関節リウマチにおけるNKT細胞の働きを解析しています。

NKT細胞の免疫系での働き】

NKT細胞はT細胞受容体 (T cell receptor : TCR) とNK細胞マーカーを併せ持つユニークな細胞であり、そのTCR鎖は、可変性のないinvariantなTCRa鎖 (Va24-Ja18 : ヒト,Va14-Ja281 : マウス) およびsemi-invariantなTCRb鎖(Vb11 : ヒト、Vb2, Vb7, Vb8.2 : マウス) を持ちます。NKT細胞は抗原提示分子であるCD1dに結合した糖脂質抗原を認識し活性化され、短時間に大量のTh1サイトカイン (IFN-g、TNF-a等)、Th2サイトカイン (IL-4、IL-10等)、Th17サイトカイン(IL-17等)を産生することから、Th1、Th2、Th17の機能を有するT細胞 (Th0) と考えられています。

naive CD4+ T細胞はTCRからの刺激と種々のサイトカインによりTh1、Th2、Th17細胞へと分化誘導され、それぞれ特異的なサイトカイン産生を示します。NKT細胞は糖脂質抗原刺激により、Th1タイプ(IFN-γ等)、Th2タイプ(IL-4等)、Th17タイプ(IL-17等) の様々なサイトカイン産生を示します。

関節炎モデルマウスにおけるNKT細胞の役割

私たちは、関節炎モデルマウス(コラーゲン誘導性関節炎、Glucose-6-phosphate isomerase (GPI)誘導関節炎)を用いて、関節炎病態におけるNKT細胞の役割を解析してきました。

1)コラーゲン誘導性関節炎(collagen-induced arthritis:CIA)を用いた研究

NKT細胞が炎症性サイトカインの1つであるIL-17産生を介して、関節炎の病態に深く関与していることを明らかにしました。

NKT細胞欠損マウス(Ja281-/-)では野生型マウス(C57BL/6)に比べてCIA発症率・関節炎スコアが有意に低下することから、NKT細胞はCIAにおいて病態増悪に関与することが示唆されました(上図A, B)。また、NKT細胞自身がIL-17を産生すること、Th17細胞の特徴であるRORgt、IL-23受容体を発現することが分かりました(上図C)。これらのことから、NKT細胞は関節炎の病態に対して、自身がIL-17を産生する経路と、NKT細胞を介してTh17細胞からのIL-17産生を増強する2つの経路により関節炎病態悪化に関与していると考えられます(上図D)。

2)Glucose-6-phosphate isomerase (GPI)誘導関節炎を用いた研究

GPI誘導関節炎誘導マウスへNKT細胞の抗原(α-galactosylceramide : α-GalCer)を投与することにより、生体内でNKT細胞の活性化を介して関節炎を抑制することを明らかにしました。(下図)

NKT細胞の活性化を介した関節炎制御の研究】

NKT細胞に対する抗原として、海綿由来の合成糖脂質であるα-galactosylceramide (α-GalCer) が知られています。近年の研究より、このα-GalCerの構造の一部を置換することでNKT細胞からのサイトカイン産生を変化させることが可能であることが分かりました。さらに、NKT細胞からのサイトカイン産生を変化させることで、様々な炎症を制御する可能性があることも報告されています。

α-GalCerはNKT細胞に対する代表的な抗原として様々な研究に用いらています(上図)。
NKT細胞はα-GalCer刺激によりTh1/Th2/Th17タイプのサイトカインを産生します。一方で、α-GalCer中のD-ガラクトースに含まれるピラノース環上の酸素原子(上図・矢印部位)をメチル基に置換した誘導体であるα-carba-GalCerでは、NKT細胞からTh1有意なサイトカイン産生を誘導します。私たちはこのような作用に着目し、新規合成糖脂質抗原を用いたNKT細胞を介した関節炎制御の研究を進めています。