全身性エリテマトーデスの研究

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythmetosus;SLE)は、若い女性に好発し、皮疹、発熱、関節痛などの症状のほかに腎、中枢神経などの多臓器を傷害する慢性疾患です。抗DNA抗体などの多彩な自己抗体の出現を特徴とし、形成された免疫複合体の沈着が組織障害の一因と考えられています。このようにSLEにおいては自己抗体の産生が誘導されることが疾患形成に重要な役割を果たしていると考えられていますが、そのメカニズムの詳細は明らかになっていません。

PD-1欠損マウスにおけるSLE様病態の研究

PD-1(Programed death 1)は、活性化T細胞などのリンパ球上に誘導される抑制性受容体です。近年、PD-1の遺伝子多型とSLEとの関連性が報告されており、PD-1がSLEの病態に与える影響が注目されています。興味深いことに、PD-1を欠損したマウスは系統によってさまざまな種類の自己免疫疾患を自然発症することが知られており、特にC57BL/6系統のPD-1欠損マウスにおいてはSLEに類似した関節炎や免疫複合体の沈着を伴った糸球体腎炎を発症します(図)。病態としては、PD-1の欠損によるT細胞の過剰な活性化が関与していることが想定されますが、T細胞subsetなどの詳細については明らかになっていません。

CD4+ T細胞subsetの分化においてはそれぞれに特異的な転写因子の発現が重要であり、Th-1においてはT-bet、Th-17においてはRORγtがこれにあたります。当研究室においては、これらの転写因子をT細胞においてのみ過剰発現するトランスジェニックマウスをPD-1欠損マウスと交配することによって、T-betまたはRORγtを過剰発現するPD-1欠損マウスを作成し、SLE様病態に与える影響についての検討を行っています。本研究では、SLEにおいてTh-1、Th-17のいずれが優位であるかが明らかにされるばかりではなく、SLEの疾患形成過程における病原性のCD4+ T細胞の分化制御メカニズムが解明されることが期待され、新しい治療戦略の開発につながる可能性が考えられます。