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筑波大学 医学医療系 環境生物学研究室
環境生物学研究室

〒305-8575 
茨城県つくば市天王台1-1-1
筑波大学医学医療系 
環境生物学研究室
TEL:029-853-3297

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研究の動機

親電子ストレスに対する生体応答・適応システムを理解する

 環境生物学研究室へようこそ。当研究室を主催する筑波大学医学医療系の熊谷嘉人です。私達は豊かな生活を得るために、住む場所や職を求め、食事を取って健康維持に励みます。食の嗜好は個々で異なり、肉食中心もあれば菜食主義のヒトもいます。また、健康には良くないと思いながら、ストレス回避のための喫煙や過度の間食をするヒトもいます。このような複雑な環境要因が慢性的に継続することで、健康から未病状態(病気とは診断されないが、健康ともいえない状態)となり、最終的に病気を発症することが知られています。当研究室では食生活、生活環境やライフスタイルを介して生体内に侵入する反応性化学物質として、環境中親電子物質に注目しています。例えば 1,2-および1,4-ナフトキノンはガソリンの燃焼等で生成され、大気汚染物質であるPM2.5や大気中揮発性画分に含まれています。1,4-ベンゾキノンおよびクロトンアルデヒドはタバコの煙成分です。(E)-2-アルケナール類はパクチーをはじめとする香草等の野菜に含有される食材成分です。アクリルアミドはポテトチップのような加熱食品に含まれています。メチル水銀は我が国の4大公害病のひとつである水俣病の原因物質ですが、食物連鎖および生物濃縮を介してマグロ等の大型食用魚類に蓄積します。カドミウムも4大公害病のひとつであるイタイイタイ病の原因物質として知られていますが、米に含まれています。すなわち、私たちは日常的に親電子ストレスに晒されていることになります(図1)
 親電子物質は分子内に電子密度の低い部位があり、これが電子密度の高いDNAのグアニン残基やタンパク質のシステイン残基のような求核置換基と共有結合して付加体を形成します。このような高分子の付加体形成は発がんや組織傷害の原因になる!という研究成果が多数報告されてきたことから古くから親電子物質=悪玉と理解されてきました。しかし、生体内にはグルタチオン(GSH)のような求核低分子が存在し、これとの付加体形成が親電子物質の解毒・排泄を担っていることも分かっています。したがって、環境中親電子物質の曝露量が生体内の求核低分子量を上回ると親電子ストレス優位となり、健康被害に繋がる有害性が生じると言えるでしょう(図1)
 日本人はメチル水銀やカドミウムの過剰曝露で生じた水俣病やイタイイタイ病という公害を経験した国民である故に、従来の毒性学研究は化合物側から見た有害性評価や毒性発現メカニズムの解明が注目されてきました。環境学的に鑑みれば「魚や米に含有されているメチル水銀とカドミウムの濃度は低いから大丈夫」と安心したい反面、日本人の大半は魚と米を主食として日常的かつ長期間摂取しているために、それらの健康影響は現在も危惧されています。考慮すべき点は、食生活、生活環境、ライフスタイルを介して我々は日常的に複数の環境中親電子物質の異なる用量に複合曝露されていることです。予想されることは、上記したような様々な環境中親電子物質の構造は異なるものの、化学的性質は何れも親電子性であることから、個別曝露で観察された効果は複合曝露で相加・相乗的に影響する可能性が示唆されます。当研究室では本課題解明に対して、環境中親電子物質のリスク軽減における感知・応答の鍵因子としての細胞内レドックスシグナル伝達および活性イオウ分子の役割という側面から研究を展開しています。その詳細は研究内容をご覧ください。