ところで研究の動機で言及したように、私達は個々の生活環境、ライフスタイル、食生活に応じて異なる用量および複数の環境中親電子物質に複合的に曝露されていることが考えられます(図3)。2005年に国際ガン研究機関(International Agency for Research on Cancer, IARC)の所長であるChristopher
Wildはヒトの生涯における環境曝露の総体として「エクスポソーム(exposome)」という魅力ある概念を提案しました。エクスポソームは一般的外的要因、特殊外的要因および内的要因に分類されますが、その曝露量や曝露時間の違いが健康、未病あるいは病気に関わることが考えられます。我々はエクスポソーム研究の中で高い反応性を有する親電子物質が“priority components”として認識されていることや、特殊外的要因の中で、化学物質、汚染物質、食事および生活習慣因子に異なる構造の環境中親電子物質が含有されていることに着目し、日常的な生活を鑑みた環境中親電子物質の複合曝露(エクスポソーム)について2018年度から研究を開始しました(図3)。我々は異なる親電子物質に複合曝露すると、それぞれの当該物質がセンサータンパク質のチオレートイオンに共有結合して、結果的に個別曝露より低用量で応答分子を活性化するのではないかと予想しています。言い換えれば、複合曝露では感知・応答能の閾値が低くなることに応じて、毒性に関しても個別曝露より低い用量で発現することを示唆しています。したがって、本研究は複合曝露研究の必要性という環境リスクの再考に繋がります。その詳細は基盤研究(S)「環境中親電子物質エクスポソームとそれを制御する活性イオウ分子」(2018-2022年度)をご覧ください。