医学系における研究

保健医療学域

社会医学では、主として社会や人間の集団を対象とする研究分野です。疾病の予防と健康管理、公害や環境問題、保健医療政策など、さまざまなテーマを取りあげ、研究成果を社会に還元して人類全体の健康に貢献しています。社会医学の研究が充実していることも筑波大学の特徴の一つです。

健康情報の解析・評価

地域での実践的なフィールドワークとして、環境や生活様式の変化に伴う生体反応や、疾病構造の変化をいち早くとらえ、それを予防する研究があげられます。統計学や情報科学(Information Technology)を用いた解析や評価を行い、疾病の原因探究や疾病予防・健康管理・健康増進に役立てています。

ヒトゲノム解析を用いた疾患研究

ほとんどの疾患は、個人個人の遺伝素因と、環境因子や生活習慣との相互作用によって発症すると考えられています。ヒトゲノム解析研究の発展を受け、今後の医学・医療は、ヒトゲノム多様性に基づく、環境因子に対する応答や、生活習慣の影響の個人差を、分子レベルで解明することが必要です。社会医学系では、ヒトゲノム解析の手法により、多因子疾患の「個別化医療」さらには「個別化予防医学」の確立を目指した研究を進めています。

国際共同研究-高齢化社会に向けて

日本とは環境や生活様式が異なる国々とのさまざまな比較研究が進められています。未来の日本人が健康で長生きできるよう、生活習慣病、老人病の原因を社会の中に探り当て、それを取り除こうとする包括的な予防研究がなされているわけです。今日の日本人の長寿や、老人保健法、健康増進法の制定には、このような研究が大きな役割を果たしてきました。

WHO
国際保健に関するWHO 会議への出席

社会生活の人権と安全を守る

法医学では、医学を法的問題の解決に応用するために、社会的実践として変死体の解剖を行い、死因を病理学的・中毒学的方法等で解明しています。また、個人識別や犯罪捜査のための DNA 型検出法や、薬毒物の測定法の開発、中毒のメカニズムについても研究し、より良い社会の維持や治安のために大きく貢献しています。

メンタルヘルスと社会

現代社会では、児童や老人の虐待、ドメスティック・バイオレンス、アルコール・薬物依存、自殺や犯罪を始めとする逸脱行為など、メンタルヘルスと密接に関係するさまざまな現象が発生しています。これらの現象の実態と原因を科学的手法で解明し、予防や治療のための方法を開発しています。

● 環境問題に取り組む

アジア地域で特に問題視されている井戸水からの慢性ヒ素曝露による中毒症状や世界的に深刻な問題である大気中微小粒子(PM2.5)曝露によって生じる各種疾患を分子レベルで研究しています。また、このような環境汚染問題に対処するために、世界各国と共同して研究に取り組んでいます。さらに、地球温暖化による疾病負荷に関する研究を WHOと共同で行っています。茨城県神栖町における有機ヒ素による健康被害の疫学的調査を環境省の依頼により行っています。

医療・福祉の政策につながる研究

多様化する社会における効果的な政策立案のためには、その基礎となる調査研究が必要です。少子高齢社会のもとで公平かつ効率的な医療費支払方式はどうあるべきか、医療費の適正化対策、保健医療サービスの質の評価、費用効果分析などの現代的課題について、実証データや地域および国際比較を通して調査研究しています。また、海外では国際保健医療協力のプロジェクトに専門家として参画しています。

看護学の研究対象は看護の専門技術や、胎児を含めたこどもから高齢者まであらゆる人々が抱える健康問題まで幅広いことが特徴です。高齢化社会、医療の高度化、国際化社会が進む現在、看護学における研究テーマは多岐にわたっており、研究成果が臨床現場で応用され、人々の健康維持・増進のために活かされています。

高齢者の生活リズムの変調に対する看護介入の効果を評価する研究

高齢者の3割が睡眠覚醒障害をもつといわれています。不眠は、免疫力を低下させるだけではなく、うつ状態や認知症の発症に関連し重大な健康問題であると捉えることができます。北海道から沖縄まで、高齢者の皆さんの生活リズムと睡眠の質について調査と測定を行った結果、概日リズムの同調因子(光、運動、食事、社会的交流)と生活習慣病および嗜好品などが強く関与していることが見出されつつあります。このような実態から、生活リズムを調整する看護介入の意義と効果を評価する方法を開発しています。医療費高騰のおりから、睡眠薬による対処と比較した看護介入による医療経済効果についても検討しています。

測定器 グラフ

国際発達ケア研究・コミュニティ・エンパワメントと生涯発達ケアに関する研究

子どもからお年寄りまで、一生涯にわたる発達を踏まえながら、当事者の力を引き出すエンパワメントを科学する研究を行っています。エンパワメントとは「元気になる、元気を引き出す、一緒に元気になる」こと。誰もが持っている限りない可能性や力を最大限に発揮できる環境を整える方法を科学します。諸外国と共働しながら、個人や組織、地域の力を引き出すコミュニティ・エンパワメントの仕組みづくり、よりよいケアの実現を図ります。

国際Care

パプアニューギニアの子どもたち。感染予防のための健康教育の仕組み作りが大切。

保健師教育のあり方・保健師活動に関する研究

少子高齢化の急速な進展、生活習慣病の増加等、疾病予防のための保健指導、介護予防など、地域保健活動の重要性が今日ますます高まっています。そのような状況に対応できる保健師などの地域保健従事者のあり方を追求するために、教育環境の現状と課題を科学的に分析し、今後の方向性を示唆する研究を行っています。具体的には大学における地域看護学の履修時期、地域看護学の特徴を明確にする研究、また現任保健師教育の現状と課題を分析し、保健師育成指針、プログラムを作成し、提唱しています。今後は、保健師が用いるスキルを抽出し、その体系化を試みる研究を進めていく予定です。

小児患者への病気説明の援助に関する研究

我が国の医療現場において、インフォームドコンセントが様々な場面で導入されてきています。では、子どもに対してはどうでしょうか?子どもにも子どもなりのインフォームドコンセントがあり、インフォームドアセントといわれています。子どもたちへの説明に必要なのは、子どもの興味を引き出し、子どもの言葉で理解を促すことです。そのために子どもの発達段階に応じた説明の方法や意思確認、同意の取り方があります。私たちは、入院や痛みを伴う処置、様々な制限などの説明に関して、子どもを主体とした看護援助を提案しています。

補完代替療法の身体に及ぼす影響と看護実践への応用

補完代替療法というのは「通常医療の代わりに用いられる医療」のことで、鍼灸や漢方に代表される中国医学、欧米で盛んなハーブ療法などが含まれます。日本でも一部の領域でアロマセラピーや音楽療法が取り入れられていますが、まだ一般的な使用には至っていません。その理由の1つにはっきりとした効果がわからない、つまり科学的根拠が少ないということがあげられています。私たちは心地好い香りを嗅いだときや静かな音楽を聴いたとき、身体にどのような影響が出るのか調べ、看護実践の場での活用について取り組んでいます。ストレスの多い療養環境・社会の中で少しでもリラクゼーションが得られ、健康増進につながるケア方法を考えています。