「ジーンターゲティング法によるグリア型グルタミン酸トランスポーターの個体レベルでの機能解析」


田中光一(国立精神神経センター・4部)



グルタミン酸は哺乳類の中枢神経系において最も重要な神経伝達物質であり、学習・記憶などの脳高次機能に重要な役割を果たしている。しかし、その機能的な重要性の反面、過剰なグルタミン酸は神経毒性を示し、神経変性疾患や脳虚血後の遅延性神経細胞死などの原因と考えられている。グルタミン酸トランスポーターは、神経終末から放出されたグルタミン酸を取り込み、シナプス間隙のグルタミン酸濃度を低く保つことを主要な役割とする機能分子である。現在グルタミン酸トランスポーターは神経型の2種類(EAAC1, EAAT4)及びグリア型の2種類(GluT1, GLAST)が単離されている。そこで我々は、シナプスにおけるグルタミン酸動態にとって重要な機能分子であるグルタミン酸トランスポーター(今回はグリア型のGluT1とGLT1)の個体レベルにおける生理学的・病態生理学的機能の解析を行なうため、グルタミン酸トランスポーター欠損マウスを作成した。
大脳優位に存在するGLT1の欠損マウスは海馬のシナプス間隙におけるグルタミン酸除去が障害され、致死性のてんかん発作を示し、6週齢までに半数が死亡する。また、グルタミン酸によるneurotoxicityが原因と考えられているcold injuryによる脳損傷がGLT1欠損マウスでは悪化する。
対照的に、小脳優位に存在するGluT1の欠損マウスは正常な発育を示し、てんかん発作・脳損傷の悪化などの異常は認められない。以上のようにグリア型グルタミン酸トランスポーターの2つのサブタイプは、個体レベルで異なった機能を果たしている。 現在、シナプス伝達におけるグリア型グルタミン酸トランスポーターの生理的役割を解析中でありその結果についても報告する。

Tanaka K (1993) Neurosci. Res. 16:149-153.Attwell D and Mobbs P (1994) Current Opinion in Neurobiology (1994) 4:353-359.Shibata T et al. (1996) NeuroReport 7:705-709.

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