「Naチャンネル遺伝子のイカ神経系における発現とその立体構造モデル」                 発現とその立体構造モデル」


佐藤 主税 (電子技術総合研究所・超分子部)

 ヤリイカ( Loligo bleekeri )を含む無脊椎動物は、独自の進化を遂げた生物種群である。その神経細胞には、ミエリン鞘(神経軸索を包み興奮の伝導速度を上げている)があまり発達していない。しかし、多くの軸索を融合させ、軸索の直径を大きくすることで、伝導速度を上昇させている。特に、ヤリイカの巨大軸索は、その太さが1ミリ前後、長さが数センチと非常に大きく、電気生理的実験に多く用いられ、特に、Na チャンネルの挙動などが良く調べられている。また、無脊椎動物は中枢神経系の構造に関しては、1つの脳にほとんどの機能を集約させている脊椎動物と異なり、その役割を各器官近くの副脳(サブコンピューター)に分配している。イカ、タコに代表される頭足動物では、それらが脳と呼べる段階まで発達している。特に、視覚情報処理を行う副脳であるオプティックローブは、個体間のコミュニケーションを視覚情報によって行うため、極めて発達しており、容易にそれだけを分離、研究することができる。このオプティックローブを材料として、遺伝子増幅法であるPCR法などの遺伝子操作を用いて、無脊椎動物のNa チャンネルをクローニングして、その一次構造を決定した。さらに、脊椎動物由来のものとの比較から、チャンネルの立体構造モデルの構築を行った。
 Na チャンネル遺伝子には、様々のサブタイプの遺伝子が存在することが知られている。その組織、及び、発生時期特異的発現を調べた。
 このモデルにおいては、チャンネルタンパク質は、真上から見た場合、膜貫通部位が正8角形状に配置している。中心部には各ドメインのS2とS4の壁から形成された正八角形の穴があり、そこへ、細胞外部から4つドメインのS5-6部位が途中まで入り込んでいる。膜が脱分極すると、マイナスに帯電しているS5-6部位はそれを感知し、その先端が細胞質側に達するまでS4のレールの上を移動し、マイナスに帯電したC末端による蓋を相互の電気的反発によって開ける(活性化)。同時に、4つのS5-6部位はマイナスに帯電したイオン選択性孔を中心に形成しており、通過するイオンの種類を限定する(イオン選択性)。このモデルによって、毒感受性、、Na チャンネル以外の電位作動性チャンネル、特に学習を制御すると考えられるKチャンネル、さらには、cGMP が結合することによって開く、cGMP 依存チャンネルの挙動等も極めて容易に説明できる。

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