「精神障害の生物学的アプローチ」


白石博康(筑波大・臨床医学系・精神医学)

内因性精神障害としては、精神分裂病、躁うつ病、非定型精神病などがあり、心因性のものには、神経症、心因反応、心身症がある。外因性のものは器質性精神障害である。精神医学における生物学的研究方法は広範にわたっているが、われわれのグループが行なっている研究から以下の三つの分野をとりあげ説明する。

1.精神障害の画像解析的研究
われわれの行なった頭部CTによる脳のサイズの計測は、以下の如くである。同一スライス上の側脳室断面積と脳断面積の比; ventricular brain ratio (VBR)、脳表のくも膜下腔断面積と頭蓋内腔面積の比; cerebral atrophy ratio (CAR)、側脳室の幅や長さと脳との線分比などを計測して次の結果を得た。 精神分裂病では、10歳代の患者の側脳室前角が拡大していることが示唆された。 うつ病においては、非妄想性うつ病では脳表の萎縮が、妄想性うつ病ではそれに加えて脳室の拡大が みられた。 精神分裂病、うつ病などでみられたCT上の脳萎縮には、何らかの脳の器質的要因は関与している可 能性が推定された。

2.精神障害の精神薬理学的研究
精神分裂病様症状を惹起する精神活性物質として、アンフェタミン、フェンシクリジンなどがある。 アンフェタミン慢性中毒は妄想型の分裂病モデルといわれているが、PCPは1回投与でも破瓜型、 妄想型、緊張型の分裂病と極めて似通った病態が観察される。動物実験によりこれらの物質の脳におけ る作用機序を探り、精神分裂病の病態を解明しようという研究を行なっている。今回は定量的オートラ ジオグラフィーによるラット脳内の[3H]pCCK-8結合部位に対する、慢性メタンフェタミン投与の 効果に関する研究について紹介する。実験結果から limbic lobe におけるCCKペプチドはメタンフェタ ミンによる行動変化に深く関与していることが示唆された。これは精神分裂病の病態における辺縁系関 与を支持するものである。

3.器質性精神障害の臨床神経病理学的研究
痴呆や人格変化などの脳の形態学的背景について検討している。最近は画像検査により、治療中に 患者の脳の機能状態を知ることができるようになったので、剖検による神経病理学的所見との対応が 可能になったことは精神症状を研究する上で大きな進歩である。以下に示す神経病理学的研究を行なっ ている。

1)個々の症例の臨床神経病理学的研究
2)症例群をまとめた研究
  ピック病、アルツハイマー型痴呆、エコノモ脳炎、
  急性リンパ球性髄膜脳炎、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、
  神経ベーチェット病、ハンチントン病など
  夫々の疾患群についての臨床神経病理学的研究


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