「視細胞における光シグナルトランスダクションと順応のメカニズム」


中谷敬 (筑波大・生物科学系)


脊椎動物の視細胞では、暗時に外節膜を介して内向きの電流が流れており、その結果視細胞は約-40mVに脱分極した状態を保っている。光がロドプシンによって吸収されると、光情報はシグナル・トランスダクションの過程を経て過分極応答のかたちで電気的信号に変換される。光トランスダクションではcGMPが2次メッセンジャーであり、リガンドとして直接チャネル(cGMP-gated channel)に結合し、 チャネルをゲートすることが知られている。すなわち膜電流は細胞内のcGMP濃度に依存して調節されている。cGMP濃度がCa2+によって抑えられることが知られていたが、最近になってそれが
  1. Ca2+によるguanylate cyclase 活性の抑制および
  2. Ca2+によるrhodopsinリン酸化の抑制を介するPDE 活性の促進
によることが明らかにされた。
一方、演者らは棹体の単離標本から電流を記録することによって、cGMP-gated channelがカチオンを非選択的に透過するチャネルであり、Na+などと共にCa2+も透過することを明らかにした。また細胞内に流入したCa2+はNa+/ Ca2+ exchange機構によって排出されることを明らかにした。このように、cGMP濃度とチャネルの opeining との間にCa2+を媒体とする負のフィードバックが存在することがわかる。
このCa2+フィードバックが明順応のメカニズムにどの程度貢献しているかを知る目的で、両生類の棹体および錐体の単離標本を用いて次の実験を行なった。細胞外のテスト溶液中からCa2+を除き、同時にNa+をLi+に置換して光応答を観察した。このテスト溶液を用いるとCa2+の流入がなくなり、またLi+はNa+/Ca2+ exchange機構を働かせることができないのでCa2+の排出も止まる。すなわちCa2+フィードバックが機能しなくなる。このテスト溶液中では明順応の現象は消失した。このことから視細胞における明順応はCa2+フィードバックが原因であると結論できる。


  1. Nakatani K.and K.-W.Yau (1988).Calcuimand light adaptation in retinal rods and cones. Nature. 334:69-71.
  2. Tamura T. K.Nakatani and K.-W.Yau (1989). Light adaptation in cat retinal rods. Science. 245:755-758.
  3. 中谷敬(1993).視細胞における情報処理. 実験医学、11(10):217-222.

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