造血幹細胞を体外で増幅し自在な遺伝子導入を可能にする技術を開発
ドナーマウス由来の造血幹細胞を体外で大量増幅する技術として、ポリビニルアルコール(PVA)を添加した培地を用いる方法が報告されています。そこで本研究チームでは、この方法を応用し、造血幹細胞がごくわずかに含まれる骨髄細胞から、磁気ビーズを用いた免疫磁気細胞分離法とその後の簡単な培養操作のみで、造血幹細胞の機能を維持したまま選択的に純化・濃縮できる技術を開発しました。これにより、体外での造血幹細胞への遺伝子導入が容易になると同時に、その大量増幅もできることから、従来のような放射線照射などの前処置を用いることなく、移植が可能となりました。さらに、目的の遺伝子を導入する際の工夫により、正しく遺伝子導入された造血幹細胞のみを選別、移植することで、移植後の任意のタイミングで、マウス体内の血液細胞に目的の遺伝子を発現させることに成功しました。この方法では、移植後のレシピエントマウスへの放射線による組織障害がなく、長期間安定して飼育・観察することができます。また、生体マウスへの侵襲・組織傷害が少なく、動物愛護の観点からも優れた方法であると考えられます。これらのプラットフォームを用いることで、造血幹細胞の機能を、治療の目的に応じて自在にデザインすることが可能となりました。
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DOI 10.1038/s41467-021-23763-z
Non-conditioned bone marrow chimeric mouse generation using culture based enrichment
of hematopoietic stem and progenitor cells.
(造血幹前駆細胞を選択的に濃縮・増幅し、非前処置下に骨髄キメラマウスを作製)
〜微小重力下で筋萎縮を誘発する遺伝子の発見〜
本研究では、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した、遠心機による重力環境を変えることができるマウス飼育システムを利用して、重力が骨格筋に及ぼす影響を詳しく調べました。国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」実験棟で、宇宙の微小重力環境と人工重力環境(1G)において、約1ヶ月間にわたってマウスの長期飼育を行い、ヒラメ筋の変化を分析したところ、人工重力環境では、微小重力環境で生じる筋重量の減少と筋線維タイプや遺伝子発現の変化が抑制されることを世界で初めて明らかにしました。さらに、これまで知られていなかった、筋萎縮に関わる新しい遺伝子も発見しました。
本研究成果は、月や火星などにおける長期の有人宇宙探査に向けた基礎データとなると同時に、寝たきりなどの地上で見られる筋萎縮のメカニズムの一端を明らかにする鍵となる可能性があります。
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doi/10.1038/s41598-021-88392-4
実験動物を用いた造血幹細胞移植は、さまざまな疾患に対する有効な治療法の開発や血液系の研究において重要な研究手法であると同時に、造血幹細胞の機能を確かめる強力な検証法の一つです。従来の造血幹細胞移植モデルは、レシピエント(移植される側)の免疫細胞を抑制し、移植するドナー造血幹細胞の拒絶反応を避けるため、あらかじめ放射線照射などの処置によって骨髄中の造血幹細胞を死滅させたマウスの静脈に、ドナー由来の造血幹細胞を注入させて作製しています。しかし、この処置は、レシピエントの寿命を短縮し、ドナー細胞の生着率を低下させる恐れがありました。また胎仔をレシピエントにして、造血幹細胞の高い生着率を得る方法は未だ報告されていません。
Key Points
• DHODH inhibition enhances the incorporation of decitabine into DNA in MDS cells.
〜脳深部の線条体尾部で情報の統合が行われる〜
(論文掲載 2021年 1月 19日)
ヒトを含む動物の生存にとって、価値ある物を手に入れることは最も重要な行動の一つです。そして、同じ物であっても、動物にとっての価値は物が置かれた環境や状況によって変化します。動物はその価値を、経験や学習に基づいて適切に判断しているのです。では、どのようなメカニズムで私たちは物の価値を学習しているのでしょうか。 (続き –> 筑波大学 Tsukuba Journal ウェブページ)
〜筋力低下や筋ジストロフィー治療に期待〜
(論文掲載 2021年 1月 6日)
→ プレスリリース 筑波大学 Tsukuba Journal ウェブページ
私たちの筋肉(骨格筋)は非常に高い再生能力を持っています。激しい運動や打撲などで損傷が起きた場合でも、骨格筋組織内にある骨格筋幹細胞の働きで、速やかに再生することが可能です。骨格筋はまた、私たちの体の動きを司るだけでなく、全身のエネルギー代謝を制御する組織としても大切な働きをしています。我が国は人生100年時代に突入したとも言われますが、骨格筋を一生涯にわたり健全に保つことは、健康で長生きする秘訣であると考えられます。
しかし、加齢や病気により、筋肉の再生が上手くいかない状態が生じます。それは骨格筋組織内に存在する幹細胞の機能や数が低下するからです。このような変容を抑制し、骨格筋を正常に保つためには、骨格筋幹細胞の増幅や性質を維持するメカニズムを明らかにすることが欠かせません。 (続き –>)
Research on astronaut health and model organisms have revealed six features of spaceflight biology that guide current understanding of fundamental molecular changes that occur during space travel.
→ Cell – Volume 183, Issue 5, 25 November 2020, Pages 1162-1184
In vitro data and molecular dynamics simulations suggest that KS-58 enters cells and blocks intracellular Ras–effector protein interactions. KS-58 selectively binds to K-Ras(G12D) and suppresses the in vitro proliferation of the human lung cancer cell line A427 and the human pancreatic cancer cell line PANC-1, both of which express K-Ras(G12D). Moreover, KS-58 exhibits anti-cancer activity when given as an intravenous injection to mice with subcutaneous or orthotropic PANC-1 cell xenografts. The anti-cancer activity is further improved by combination with gemcitabine.
→ Scientific Reports – 10, Article number: 21671 (2020) (英語)
〜筑波大学開発の解析技術を世界で活用〜
(論文掲載 2020年 11月 26日)
月や火星の有人探査や宇宙での長期滞在に向けた宇宙開発を進める上で、様々な生命科学分野の研究も不可欠です。これらの研究は、宇宙放射線や異なる重力環境に対する宇宙飛行士の順応や、長期滞在に伴う食糧生産などの課題解決に資するものです。また、骨密度の低下や筋の萎縮、代謝の変化など、地上で人体に起きる老化に関連した変化と類似した現象が宇宙で起きることが、宇宙飛行士や生物を対象とした研究で明らかにされており、生命科学研究にとって、宇宙研究は、地球での健康維持にも応用可能な、新しい分野として認識されつつあります。
このような研究には、各国の宇宙機関が主導する様々な実験の結果を集約・共有し、データを総合的に解析することが大切です。そこで、宇宙生命科学実験に携わる研究者が集まり、実験やデータ取得の方法を統一化するための国際的なコンソーシアム「International Standards for Space Omics Processing(宇宙オミックス解析の国際標準、ISSOP)」が結成されました。この組織には、米国、欧州をはじめ、日本も参加します。その中で筑波大学は、これまでゲノミクス解析分野での微量サンプルの解析技術や実験自動化を通してオミックス解析を先導しており、このようなデータを活用する日本国内の研究者の代表としての役割を担うとともに、これまでの宇宙生命科学の進展とISSOPの活動を紹介する総説を発表しました。ISSOPの枠組みを基盤として、国際的な研究者のネットワークによる精度の高いデータ解析が行われることで、深宇宙の有人探査を目指す研究のスピードアップが期待できます。
快楽から意思決定まで ドーパミンニューロンが担う多様で複雑な働きに迫る
(論文掲載 2020年 11月 11日)
“ドーパミンという脳内物質の名称を聞いたことのある人は多いでしょう。以前から快楽物質としてよく知られていましたが、近年、それだけではなく、学習や動機付け、行動抑制などにも関わっていることがわかってきました。中脳という脳の奥の方に存在し、ドーパミンを作り出す神経細胞であるドーパミンニューロンに障害が起きると、情動とは関係ない部分にも影響が生じます。例えば、ドーパミンニューロンが80%ほど失われると、運動や認知機能に様々な症状が現れるパーキンソン病を発症します。”