統合医科学研究部門
認知神経科学分野

研究内容


我々の研究室では、注意や情動、推論、学習、意思決定、意欲などの心理現象を実現する脳のメカニズムを解明することを目標に研究しています。そのため、ヒトに近い脳の構造を持つサルに様々な認知行動課題をおこなわせ、その際に脳がどうのように活動するのかを電気生理学的な手法を用いて調べています。そして、その活動を脳局所への薬物投与や電気刺激によって操作することにより、脳の活動が認知機能や行動制御に果たす役割を解析しています。

現在進行中の主な研究テーマとしては、以下のものがあります。

意欲を生み出す神経メカニズムの解明:前頭前野への中脳ドーパミン入力の役割

(最先端・次世代研究開発支援プログラム採択課題)

大脳の前方部に位置する前頭前野は、高次な精神活動の中枢として重要な役割を果たしています。例えば、目標を達成して報酬を得よう、罰を避けようという「意欲」にも、前頭前野の働きが関わっています。これまで、前頭前野には報酬や罰が予測されたときに活動する神経細胞が存在し、このような活動が意欲のコントロールに関与することが示されていますが、その活動がどのような神経機構によって実現されているかという根源的な問題については解明されていません。本研究では、特に、中脳に分布するドーパミンニューロンから前頭前野に伝達される神経シグナルに注目しています。我々のグループは、ドーパミンニューロンが報酬や罰に関わる神経シグナルを伝達していることを明らかにしてきました。このようなドーパミンシグナルが、意欲をコントロールする前頭前野の活動を支えるために、どのような役割を担っているのか調べています。


Matsumoto & Hikosaka, Nature, 2009より]

視覚探索行動におけるモノアミンニューロン群の役割

我々は、視野内の複数の対象の中から目的の特徴を持つターゲットを探し出す視覚探索行動を日常的におこなっています(たとえば「ウォーリーをさがせ」というゲームを思い浮かべてください)。このような視覚探索は、ターゲットを探し出すための「注意」や、ターゲットを見つけたという「自己の行動評価」、どんなターゲットを探しているのかという「作業記憶」のメカニズムを調べるモデルとして用いることができます。本研究では、特に、ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンなど、その機能異常が精神疾患とも深く関わるモノアミンニューロン群の役割に注目しています。サルに視覚探索課題をおこなわせ、その際のモノアミンニューロンの活動を記録し、また、モノアミン神経伝達物質の作動薬・拮抗薬の脳局所注入がサルの行動に与える影響を解析することによって、モノアミンニューロン群が「注意」や「行動評価」、「作業記憶」に果たす役割を調べています。

脳による血液循環・呼吸調節メカニズム

脳による血液循環および呼吸運動の微細なコントロールは生体の恒常性維持にとって重要な役割を果たしています。それゆえ、これらのシステムが正常に働かない場合には、重大な疾患をもたらすことになります。しかしながら、その実態については、未だに多くのブラックボックスが存在しています。当研究室では、そのブラックボックスを明らかにするために、ラットまたはマウスのin vivo標本およびin situ標本(経血管灌流標本)を用いて、主に電気生理学的手法を用いた循環調節中枢および呼吸中枢の詳細な解析を行っています。現在、特に、①循環調節中枢ニューロンの化学受容性についての解析、②呼吸-循環連関についての解析、③それらの破綻によってもたらされる疾患の解析を行っています。

部門長

松本正幸 教授



主任研究員

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