High Mobility Group蛋白質HMGB1の新展開
聖マリアンナ医科大学 リウマチ・膠原病・アレルギー内科

尾崎承一(おざき しょういち)

 HMGB1蛋白質が最近、臨床の場、特に、自己免疫疾患、癌、ショックの分野で注目を集めている。元来、HMGB1蛋白質は非ヒストン核蛋白の主要成分として知られて、その名は電気泳動上の高度な移動性に由来する(HMG= high mobility group)。HMGB1および類似蛋白質のHMGB2は、その分子内にHMGボックスというDNA結合ドメインを2つ有している。そのため、従来はHMG1/HMG2と呼ばれていたが、近年の命名法ではHMGB1/HMGB2(Bはboxの意味)と呼ばれるに至った。HMGB1の最も重要な核内の機能は、ヒストンH1と置換してヌクレオソーム構造を弛緩させ転写反応に最適な構造を構築させることであるが、その他、リンパ球のVJ/VDJ組み換えにも重要な役割を演じている。
 ところが過去10年ほどの研究過程で、この分泌シグナルを持たない核蛋白HMGB1が、実に細胞外に分泌されて種々の機能を営むことが判明した。中でも注目されるのが敗血症性ショックのメディエーターとしての機能である。マウスのLPS)投与モデルにおいて、TNFα刺激によりマクロファージから分泌されるHMGB1が敗血症のメディエーターであることが証明されたのである (Wang et al.: Science 1999;285: 248-251)。
 我々は早くから抗好中球細胞質抗体の対応抗原の同定に取り組み、その一つとしてHMGB1に到達していた (Clin. Exp. Immunol. 1997; 107: 135-140)。抗HMGB1抗体のELISAを樹立し種々の炎症性疾患での抗体出現頻度を調べたところ、自己免疫性肝炎で90%、原発性胆汁性肝硬変では70%という高い陽性率を観測した。このELISA系は現在キット化され、臨床での応用展開が待たれている。
 一方、我々はモノクローナル/ポリクローナル抗HMGB1抗体を用いて、可溶性HMGB1のELISA測定系も樹立した。健常者および多くの患者では血清HMG1レベルは検出感度 (10ng/ml) 以下であったが、一部のショック状態の患者では高値を呈し、特に致死的な経過をとる患者群においてその傾向が強かった。我々の研究グループが新規に開発した致死的肝結紮マウスモデルでは、100%のマウスが60時間で致死的経過をたどるが、それに先行して血清HMGB1の上昇が認められた。さらに、肝結紮直後にモノクローナル抗HMGB1抗体を投与すると死亡率が30%減少した。このことは、WangらのScienceの報告と合わせ、ある種の致死的病態ではHMGB1が密接に関与していること、および、その除去により救命できることを示唆している。HMGB1の致死効果の分子機序の解明が、今後に残された重要な問題である。