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PIP5K
「NMDA受容体を介したPIP5Kの活性化は、PI(4,5)P2
の産生を引き起こし、長期抑圧におけるAMPA受容体のエンドサイトーシスに必須の役割を果たす」
[概要]
脳の記憶・学習機能は神経細胞間のシナプス伝達効率の動的な変化、すなわちシナプス可塑性により支えられていると考えられて
おり、シナプス伝達効率
を持続的に低下させるシナプス可塑性として長期抑圧があります。長期抑圧の発現には、興奮性シナプス伝達を主として担うAMPA受容体がシナプス後膜から
細胞内に取り込まれることが必須であると知られているものの、神経活動の変化がどのようにしてこの取り込み機構を制御するのかは不明でした。本論文ではこ
の取り込み機構の制御因子としてリン脂質代謝酵素PIP5Kγ661に着目し、NMDA受容体の活性化がPIP5Kγ661の酵素活性を上昇させること、
これにより産生されるリン脂質PI(4,5)P2がAMPA受容体の取り込み機構もたらす引き金になることを見いだしました。
この発見はシナプス可塑性のメカニズムを分子レベルで説明する新たな知見として、脳の記憶・学習機能を支える基本原理の理解に貢献することが期待されま
す。
(Takamitsu Unoki et al., NMDA Receptor-Mediated PIP5K Activation to
Produce PI(4,5)P2 Is Essential for AMPA Receptor Endocytosis during
LTD, Neuron. 73, 135-148, 2012)
※本研究は慶應義塾大学医学部 生理学教室 柚ア研究室との共同研究によるものです。
※本研究成果は 慶應義塾大学医学部 筑波大学医学医療系プレスリリースとしても報道されています。詳しくはこちら
「p38MAPK-PLD2シグナルによる神経突起形成制御」
[概要]
脂質性シグナル伝達においては、細胞膜構成成分であるリン脂質とその代謝産物が脂質性シグナル分子として働き下流へシグナルを伝えることで様
々な細胞機能を調節しています。
ホスフォリパーゼD (PLD)
は生体膜構成リン脂質のホスファチジルコリン(PC)を加水分解して、ホスファチジン酸(PA)を産生するリン脂質代謝酵素であり、PLDにより産生され
るPAは「脂質性シグナル伝達分子」として働くため、PLDはPAを介して様々な細胞機能を調節していると考えられています。現在までに、ほ乳類PLDと
してPLD1とPLD2の2種類のPLDアイソザイムが同定されており、現在までにPLDの生理機能については精力的な解析がなされ、PLD1

が細胞内小胞輸送や分泌反応に、PLD2はエンド
サイトーシスなどの細胞膜ダイナミクスに関与することが示唆されています。
本論文ではPLDアイソザイムのうちのPLD2がp38MAPキナーゼによる神経突起伸長シグナルを仲介することを証明しました。神経モデル細胞とし汎用
されているPC12細胞を神経増殖因子(NGF)により刺激したところ、PLD2の活性化が観察され、神経突起伸長が起こること、また様々な阻害剤、変異
体を用いた実験から、p38の下流でPLD2が機能し、神経突起伸長を制御することを証明しました。今回発見した新たなPLDのシグナル経路から、今後更
なるPLDを介した脂質性シグナル伝達や細胞機能の解明が期待されます。
(Watanabe H & Hongu T et. al., Phospholipase D2 activation by p38
MAP kinase is involved in neurite outgrowth. Biochem Biophys Res
Commun. 413(2):288-93, 2011)
「マウス個体におけるArf6の時空間的な発現分布解析」
[概要]
生体において臓器は様々な細胞により形成されており、それらの細胞が一つの臓
器内で異なる役割を働いている。さらに、それら細胞は、臓器の発生に伴いダイ
ナミックに変化する。そのため,生体での遺伝子、タンパク質の詳細な発現分布
は生体での研究において非常に有益な情報であり、生理機能解析を行うにあたり
必要なものである。低分子量Gタンパク質であるADP-r

ibosylation
factor 6 (
Arf6) は種々の細胞において、アクチン骨格の再構成、細胞接着の制御、エンド
サイトーシス、エキソサイトーシスや細胞内小胞輸送などの多くの重要な細胞機
能に関与している。しかし、これらの知見は培養細胞系を用いたin vitroでの研
究によるものであり、生体レベルでのArf6の機能解析はほとんど行われておらず、
生体での生理機能解析が急務とされている。しかし、これまでArf6の各臓器組織
での時間的•空間的な発現分布は不明なままであり、このことが生体での生理機能
解析の進行を妨げる理由のひとつとなっている。そこで本論文では、この問題を
解決しArf6の生理機能解析の研究を促進させるため、哺乳動物モデルとしてマウ
スを用い、時間的(ステージ特異的)・空間的(細胞特異的)なArf6 mRNAの発
現パターンをin situ ハイブリダイゼーション法を用いて解析した。その結果、
Arf6は発生段階において、臓器ごとに異なったタイミングで発現していることが
判明した。これらの知見はArf6が様々な臓器で異なる重要な役割を担っている可
能性を示唆するものであり、今後のArf6の生体での生理機能解析の研究において
有益な情報になると考えられる。
(Akiyama M et. al., Tissue- and development-dependent expression of the
small GTPase Arf6 in mice. Dev Dyn. 239(12):3416-35, 2010 )