第21回免疫学セミナー・医科学セミナーのお知らせ

平成18年 1月19日(木)
午後17:00-18:00
総合研究棟D棟 中会議室 115号室


タイトル:獲得免疫と自然免疫の制御におけるIRF-4の役割        

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系専攻
感染分子病態学講座 免疫機能制御学分野
本間 季里 先生

講演要旨:
 1995年、Matsuyamaらによってクローニングされた、Interferon regulatory
factor (IRF) familyに属する新規の転写因子はその後IRF-4と命名された。IRF-4は
興味深いことにT細胞、B細胞、マクロファージ(MΦ)および樹状細胞 (DC) などの
免疫担当細胞に限局して発現しており、免疫反応において重要な役割を担っていると
考えられた。クローニング後ただちにMatsuyamaらが遺伝子欠損マウス(IRF-4 KO)
を作成し解析したところT細胞の分化は正常であったがその応答性の低下、B細胞にお
いては抗体産生の著明な低下などが認められた。T細胞の活性化、不活性化のメカニ
ズムに興味を持っていた私達はIRF-4がその鍵を握るのではないかと考え、IRF-4 KO
を用いて解析を始めたのが約5年程前であった。
 解析を始めてみると意外なことにIRF-4 KOのT細胞は応答性の低下はあるものの不
活性化状態とは言えず、刺激の条件によっては十分な反応を示した。そこで、in
vivoにおけるマウス感染モデルを用いてTh1/Th2分化を解析した。マウスにおける
Leishmania major (L.major)感染ではTh1が、Nippostrongylus brasiliensis (NB)
感染ではTh2が寄生虫排除を担っている。IRF-4 KOにL. majorを感染させると足趾の
肥厚は感染6週までは認められず、個体レベルでTh1に分化していることが示唆され
た。一方、IRF-4 KOにNBを感染させた場合に虫体排除は著しい遅延を認めin vivoで
Th2に分化しにくいことが示された。このことは、IRF-4 KOをBALB/cバックグラウン
ド(通常はTh2優位の反応を示す)にかけ戻しても同様であった。In vitroでも
IRF-4 KOのnaïve CD4 T細胞はTh1条件下にて培養するとTh1に分化したが、Th2
条件下で刺激をしてもTh2には分化しなかった。その原因はIL-4レセプターの発現異
常でも、IL-4を介したシグナル、STAT6のリン酸化の異常でもなくSTAT6より下流の異
常と考えられた。
 一方、共同研究者の鈴木らはCD8+CD11bhighの表現型を持つDCサブセット
の分化にIRF-4が重要であることを明らかにしたが、彼等との共同研究の中で私達は
IRF-4 KOのDCはLPSに対する反応性がWTと異なることを見い出した。そこで、腹腔内
にLPSを投与してエンドトキシンショックを誘発したところ、WTに比べてIRF-4 KOで
は著しい感受性の亢進を認めた。また、両者のMΦをTLRリガンドで刺激するとIRF-4
KOマウスのMΦからは炎症性サイトカインの産生亢進が認められた。RNAiや遺伝子導
入実験により、これらはMΦの分化の異常ではなくIRF-4が直接関与していることが示
された。すなわち、IRF-4はMΦにおいては、TLRからのシグナルに対して抑制的に働
く分子であることが明らかとなった。
 本セミナーではこのように獲得免疫と自然免疫の双方に関わる転写因子IRF-4につ
いて私たちの研究結果を中心に話をする予定である。

参考文献:
1. Honma, K., Udono, H., Kohno, T., Yamamoto, K., Ogawa, A., Takemori, T.,
Kumatori, A., Suzuki, S., Matsuyama, T., and Yui, K. Interferon regulatory
factor-4 negatively regulates the production of proinflammatory cytokines
by macrophages in response to LPS. Proc Natl Acad Sci USA 102: 16001-16006,
2005.
2. Negishi, H., Ohba, Y., Yanai, H., Akinori Takaoka, A., Honma, K., Yui,
K., Matsuyama, T., Taniguchi, T., and Honda, K. Negative regulation of
Toll-like receptor signaling by IRF-4. Proc Natl Acad Sci USA 102:
15989-15994, 2005.
3. Yoshida K, Yamamoto K, Kohno T, Hironaka N, Yasui K, Kojima C, Mukae H,
Kadota JI, Suzuki S, Honma K, Kohno S, Matsuyama T. Active repression of
IFN regulatory factor-1-mediated transactivation by IFN regulatory
factor-4. Int Immunol. In press.
4. Suzuki, S., K. Honma, T. Matsuyama, K. Suzuki, K. Toriyama, I. Akitoyo,
K. Yamamoto, T. Suematsu, M. Nakamura, K. Yui, and A. Kumatori. 2004.
Critical roles of interferon regulatory factor-4 in CD11brightCD8-
dendritic cell development. Proc Natl Acad Sci USA 101: 8981-8986, 2004.
5. Tominaga, N., Ohkusu-Tsukada, K., Udono, H., Abe, R., Matsuyama, T., and
Yui, K. Development of Th1 and not Th2 immune responses in mice lacking
IFN-regulatory factor-4. Int Immunol. 15: 1-10, 2003.