顆粒球のひとつである好塩基球は、1879年にEhlichによって初めてその存在が記載されたが、その後長い間、好塩基球の生体内での役割・存在意義に関してほとんど解明が進んでいなかった。好塩基球は、ヒトでもマウスでも末梢血白血球のわずか0.5%を占めるに過ぎない最小血球細胞集団であり、また高親和性IgE受容体FcεRTの発現やヒスタミンを含むケミカルメディエーターの分泌などマスト細胞との共通点が多いことから、「血中循環型マスト細胞」と揶揄されるなど、マスト細胞の影に隠れた脇役として無視され続けてきたといっても過言ではない。ところが、この2、3年の間に立て続けに、生体内におけるアレルギー反応や免疫制御において好塩基球が極めて重要な役割を果たしていることが報告されて、これまで日陰者扱いされていた塩基球が、にわかに注目を集めるようになった。

 本講演では、私たちが最近見いだした「好塩基球が主役を演じるアナフィラキシー炎症の新たな誘導機構」を中心にして、生体内における好塩基球のユニークな役割について討議したい。


1.Mukai, K. et al.: Basophils play a critical role in the development of IgE-mediated chronic allergic inflammation independently of T cells and mast cells. Immunity 23: 191-202, 2005.

2.Obata, K. et al.: Basophils are essential initiators of a novel type of chronic allergic inflammation. Blood 110: 913-920, 2007.

3.Tsujimura, Y. et al.: Basophils play a pivotal role in immunoglobulin G- but not immunoglobulin E-mediated systemic anaphylaxis. Immunity 28 581-589, 2008.