サイトカインに対する受容体は、細胞内ドメインに会合するJak型チロシンキナーゼと転写因子STATによるシグナル伝達系によって制御されている。感染症などによって引き起こされる激性炎症は、急激なサイトカイン産生(サイトカインストーム)を引き起こす事により、時として過剰な炎症反応を引き起こすことになる。この危険性を回避するため、生体はサイトカインバランスの恒常性を厳格に制御するシグナル伝達システムを備えており、Suppressor of Cytokine Signaling (SOCS)はJak/STATシグナル伝達系を制御して恒常性を維持する分子として知られている。
本研究では角化細胞特異的にこのSOCS分子を欠失させたK5creTgXSOCS1 f/fおよびK5creTgXSOCS3 f/fマウスを作製し、上皮細胞系におけるSOCS分子の持つ恒常性制御機能を解析した。SOCS1欠損マウスでは異常が認められなかったのに対し、SOCS3欠損マウスは、生後3ヶ月令よりIgE抗体の上昇を伴う、引っ掻き行動を伴う皮膚炎を発症し始め、生後5ヶ月令には90%以上の個体で重度の皮膚炎を発症するようになった。皮膚炎部位では角質層においてSTAT3の活性化がみられ、顕著に肥厚していた。さらに、病変部位では好中球の浸潤と重度の血管拡張が認められ、この自然発症する皮膚炎は疥癬樣の病態を示していた。
これまで疥癬にはTh17細胞を介するIL-23-STAT3-Th17-IL-22-Defensine/抗菌蛋白S100A7経路とT細胞非依存的なIL-23-STAT3-IL-19/IL-20/IL-24-DefensineDefensine/抗菌蛋白S100A8/A9経路の2つのモデルが提唱されている。ところが、SOCS3欠損マウスにおける疥癬樣皮膚炎は、IL-6を起点とするIL-6-STAT3-IL-19/IL-24-Defensine&S100A8/A9の経路によって制御されていた。このことから、SOCS3は角質細胞の増殖に関与するIL-6によるSTAT3の活性化を抑制的に制御して、皮膚の異常増殖を抑制し、恒常性を保つ重要な働きを持つことが分かってきた。そして、この抑制機構の破綻は、角質細胞の異常増殖を誘発し、乾癬樣の皮膚炎を発症させることに繋がって行く。この事から、SOCS3の皮膚の恒常性維持における新しい側面が明かされることになった。