セマフォリンファミリーは、1990年代初頭から発生課程において、神経の移動・方向性を決定する「ガイダンス因子」として同定されてきた分子群である。近年、器官形成、血管新生、脈管形成、癌の進行などへの関与も報告され、生体の組織構築及び細胞の運命を決定する代表的な細胞外因子の一つと考えられている。免疫系においても、我々のここ数年の研究により免疫系で機能する一群の分子群(免疫セマフォリン分子群)の存在が明らかになっている。今回のセミナーでは主としてセマフォリンの代表的な受容体の一つであるPlexin-A1を取り上げ、セマフォリンシグナルの免疫系における役割について紹介する。
 
Plexin-A1III型セマフォリン(Sema3A)VI型セマフォリン(Sema6C, Sema6D)の受容体として知られ、免疫系では樹状細胞に特異的に発現している。我々はPlexin-A1の免疫系での役割を明らかにする目的でplexin-A1欠損マウスを用いた解析を行ったところ、Plexin-A1欠損マウスではリンパ節における抗原特異的T細胞のプライミングが障害されており、この障害は樹状細胞の末梢組織からリンパ節へのtraffickingの異常によることが明らかになった。さらにイメージングの手法を用いた詳細な解析により、樹状細胞が微小リンパ管を通過する過程(transmigration)Plexin-A1が関与していることが明らかとなった。このことは、セマフォリンが神経のみならず、免疫細胞の移動にも寄与する「ガイダンス因子」であることを示している。