研究内容紹介

当研究グループは、1.副腎髄質におけるカテコールアミン分泌・合成調節機序の研究,2.褐色細胞腫におけるカテコールアミン分泌・合成調節機序の研究、3.肥満形成とカテコールアミンの関係、4.脂肪細胞の分化増殖機序とインスリン抵抗性の解明、5.糖尿病血管合併症の病態の解明の5つを中心に研究を行っている。研究の手法は分子生物学的手法を用い、遺伝子レベルでの解析を行っている。褐色細胞腫の研究では、遺伝子レベルでの異常を明かにしたが、さらに診断、治療への応用を図りたい。
臨床医学系 助教授 川上 康
(1)脂肪細胞の分化増殖機序とインスリン抵抗性の解明
脂肪細胞におけるエネルギー代謝で重要な役割を担う脂肪酸に関連した転写因子の同定により、エネルギー代謝異常や肥満症の分子病態を明らかにし、肥満、糖尿病、高脂血症のようなエネルギー蓄積病態の治療に貢献したい。現在までに、当グループでは肥満遺伝子の発現機構を詳細に検討し、その発現が脂肪細胞内の脂肪酸蓄積量によって調節されていることを明らかにしている。この結果は、肥満遺伝子はbasalの発現量が何らかの要因で上昇することにより調節されているのではなく、basalの発現量を低下させることによって調節されており、それは脂肪細胞内でのlipolysisによって生じる脂肪酸の蓄積によることを示している。したがって、PPAR?のみならず脂肪酸をligandとする?あるいは?は脂肪酸による発現調節に関与する核内受容体(転写因子)として重要な役割を果たしている考えられ、その役割を明らかにしていきたい。

(2)糖尿病血管合併症の病態の解明
糖尿病性最小血管合併症の進展に血管増殖性因子、とくに血管内皮増殖因子(VEGF)が血管内皮細胞増殖、血管平滑筋細胞遊走、血管透過性亢進作用を介して深く関与する。本研究では抗体、アンチセンス核酸を用いてVEGF作用を蛋白、mRNAレベルで抑制し糖尿病性網膜症、腎症に対する抑制効果を糖尿病動物において検討する。またVEGFの血管内皮細胞および平滑筋細胞に対する作用を培養系で検討する。
臨床医学系 講師 磯部和正

1.褐色細胞腫におけるカテコールアミン産生・分泌機序の解明
褐色細胞腫は、腫瘍組織よりカテコールアミンというホルモンを過剰に放出することにより、高血圧等の症状を引き起こす。そのホルモン合成が、合成酵素mRNAの過剰発現によるものであることを明らかにしている(European J Endocrinology,1998)。現在以下の研究テーマを抱えている。
①遺伝子の過剰発現について細胞内情報伝達および転写因子のレベルで明らかにする。
Tyrosine Hydroxylase遺伝子のスプライシング異常機構の解明。TCAT多型とカテコ ールアミン産生との関連の解明。
③褐色細胞腫におけるTyrosine Hydroxylaseアイソフォーム産生異常の機構の解明。
DNAチップによる発現遺伝子の解析により、悪性度カテコールアミン産生亢進の機序 の解明を行う。

2.培養副腎髄質細胞、PC12を用いたカテコールアミン合成・分泌機序の解明
副腎は腎臓の上極に位置するホルモン産生臓器である。皮質よりステロイドホルモン、髄質よりカテコールアミンが産生される。近年、この髄質に神経ペプチドPACAPが存在することが発見され、われわれはそのペプチドが強力なカテコールアミン分泌作用を持つこと(Endocrinology,1993)、そして合成酵素(TH,DBH)の発現増加作用を持つこと(Neuropeptides,1996)を明らかにし、さらに転写因子レベルでの解析を行った(Neuropeptides,1999)。現在、摂食抑制物質オレキシンの副腎髄質における作用について検討を行っている(BBRC 投稿中)。

臨床医学系臨床病理 竹越一博

1. 褐色細胞腫の病態解析  
褐色細胞腫は交感神経幹から発生しカテコ-ルアミンを産生する腫瘍である。カテコ-ルアミンは、副腎髄質の顆粒に貯えられるが、カテコ-ルアミン以外にも種々の物質{例えばオピオイドペプチド、やproadrenomedullin N-terminal 20 peptides (PAMP) }も顆粒に存在して病態に影響していると考えられる。そこで、褐色細胞腫におけるペプチドホルモンによる調節について検討する。

2. カテコ-ルアミンと肥満
カテコ-ルアミンと肥満との関係は、議論が多く、古くて新しいテ-マである。我々は、肥満ホルモンレプチンが、直接副腎髄質を刺激してカテコ-ルアミン分泌と合成を促進することを報告している。つまり、副腎髄質は、肥満と密接な関係にあり、副腎髄質におけるレプチン抵抗性が、肥満形成に重要である、との仮説を立てている。現在、副腎髄質におけるレプチンのシグナル伝達について検討中である。
3. 2AngⅡ受容体 (AT2-R)は、副腎髄質に発現しているが、その機能に関しては不明な点が多い。最近のAT1-R阻害薬(カンデサルタンやロサルタン)の 臨床使用により、 AT2-Rの機能解析は焦眉の急である。そこで、ブタ副腎髄質初代培養細胞にCGP42112AT2-R agonist)を添加て、カテコ-ルアミン分泌と合成を検討している。

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