令和4年度

医学教育における肉眼解剖実習の重要性

 

筑波大学医学医療系 教授 高橋 智

 

 筑波大学は、わが国最古の高等教育機関の一つとして誕生した「師範学校」が基盤となり、その後「東京高等師範学校」「東京教育大学」を経て現在に至っています。来年10月には、筑波大学の開学50周年、創基151周年を迎ます。開学以来、人材教育重視の姿勢は大学の伝統であり、常に最先端の教育を行なって来ました。その精神は、東京高等師範学校の校長を務めた嘉納治五郎先生の「一人徳教広加万人 一世化育遠及百世」に明確に現れていると思います。医学教育についても同様で、筑波大学医学群は開設当初より、統合型カリキュラムや長期の臨床実習を国内で初めて導入するなど、最新の医学教育を実施して来ました。平成16年度には、それまでの受動的な学習から参加型教育、発見的・選択的学習への改革を行いました。これは、教員が教壇から一方的に知識を教える受動的な教育を極力少なくして、少人数の学生が自ら与えられた課題を解決していく、自己学習を中心とした教育方法への転換でした。このような学習により、学生の学習意欲を高めると同時に、医師や医学研究者にとって最も重要な問題解決能力を養うことができます。この能動的な学習方法の導入とともに、技能・態度も重視する教育にも転換しました。臨床現場において知識はもちろん必要ですが、その知識を実践できる基本的な臨床技能を有していること、また患者さん中心の医療を実現できることが重要です。これらの技能・態度を習得するために、学生が実際に模擬患者さんに対して医療面接を行う実習や、知識や技能の認証を受けた後で、スチューデント・ドクターとして医療チームの一員として仕事を分担する、より長期の病院実習が導入されました。これらの実習を通して、患者さんに信頼される技能・態度を有する医師を養成しています。更に、平成30年度には、日本医学教育評価機構(JACME)の「国際基準に基づく医学教育分野別認証」を取得し、国際基準に適合した教育カリキュラムへのさらなる改革を行いました。その中で、卒業時に身に付けなければならない能力「コンピテンシー」を明確にし、その能力を獲得するためにどのような教育を行うかを明確にした学習過程「マイルストーン」を作成し、医学教育で実践しています。筑波大学医学群では、このような時代に応じた改革により国際基準に適合したカリキュラムにより、問題解決能力および患者さんに信頼される技能・態度を有する医師および医学研究者の養成を行なっています。

 筑波大学医学群では、常に新しい医学教育を目指していますが、何時の時代でも完全な教育法というものは存在せず、今後も様々な改革をしていく必要があります。しかしながら、様々な教育改革の中にあっても、肉眼解剖実習の重要性は変わらないと思います。なぜなら、肉眼解剖実習を通して学生が得るものは、解剖学的な知識のみならず、ご献体していただいたご遺体に接して初めて得られる医師、医療従事者になる者としての自覚であるからです。医師、医療従事者にとって、解剖実習で担当するご遺体は最初の「受持患者様」です。私自身は、卒業後直ぐに医学研究を始めたので、臨床の経験はほとんどありませんし、医学教育においても顕微鏡を使う組織学を主に担当しており、現在は肉眼解剖実習に参加していませんが、肉眼解剖実習を通して学んだこと、考えさせられたことはいまだに覚えており、医学研究者、教育者としての重要な部分を形成しています。今年になり、肉眼解剖実習に関連した不適切な事例の報告がありましたが、医学教育の携わる者としては、あってはならない事だと思います。

私の任期も残り少なくなってきましたが、今後も時代の要請に応じた教育改革を行いながら、白菊会を始めとする多くの方々のご協力のもとに、より良い医師、医療従事者、医学研究者の育成を行っていきたいと思います。

 

平成30年度

医学教育と肉眼解剖実習

 

筑波大学 医学医療系 教授  高橋 智

 

白菊会会員の皆様もご存知のように、筑波大学の前進は東京教育大学で、優れた教育法の開発は大学の伝統であり、常に最先端の教育改革を行なって来ました。医学教育についても同様で、筑波大学医学専門学群(現在の医学群)開設当初より、現在でも行われている統合型カリキュラムや長期の臨床実習を国内で初めて導入するなど、最新の医学教育を実施して来ました。平成16年度には、それまでの受動的な学習から参加型教育、発見的・選択的学習への改革を行いました。これは、教員が教壇から一方的に知識を教える受動的な教育を極力少なくして、少人数の学生が自ら与えられた課題を解決していく、自己学習を中心とした教育方法への転換でした。実際には、病院を受診された患者さんの病歴などの情報が与えられ、そこから学生が自ら問題を抽出し、その問題の解決に必要な知識を検索・収集し、解決方法を導き出す「問題解決型」の学習方法です。このような学習により、学生の学習意欲を高めると同時に、医師や医学研究者にとって最も重要な問題解決能力を養うことができます。この能動的な学習方法の導入とともに、技能・態度も重視する教育に転換しました。臨床現場において知識はもちろん必要ですが、その知識を実践できる基本的な臨床技能を有していること、また患者さん中心の医療を実現できることが重要です。これらの技能・態度を習得するために、学生が実際に模擬患者さんに対して医療面接を行う実習や、知識や技能の認証を受けた後で、ステューデント・ドクターとして医療チームの一員として仕事を分担する、より長期の病院実習を導入しました。これらの実習を通して、患者さんに信頼される技能・態度を有する医師を養成しています。更に、今年は日本医学教育評価機構(JACME)の「国際基準に基づく医学教育分野別認証」を取得し、国際基準に適合した教育カリキュラムへのさらなる改革を行いました。その中で、卒業時に身に付けなければならない能力「コンピテンシー」を規定し、その能力を獲得するためにどのような教育を行うかを明確にした学習過程「マイルストーン」を作成しました。筑波大学医学群ではこのような様々な改革により、国際基準に適合したカリキュラムにより、問題解決能力および患者さんに信頼される技能・態度を有する医師および医学研究者の養成を行なっています。

筑波大学医学群では、常に新しい医学教育を目指していますが、何時の時代でも完全な教育法というものは存在せず、今後も様々な改革をしていく必要があると思います。しかしながら、様々な教育改革の中にあっても、肉眼解剖実習の重要性は変わらないと思います。なぜなら、肉眼解剖実習を通して学生が得るものは、解剖学的な知識のみならず、ご献体していただいたご遺体に接して初めて得られる医師、医療従事者になる者としての自覚であるからです。医師、医療従事者にとって、解剖実習で担当するご遺体は最初の「受持患者さん」です。私自身は、顕微鏡を使う組織学を担当しており、現在は肉眼解剖実習に参加していませんが、学生時代の肉眼解剖実習を通して学んだこと、考えさせられたことはいまだに覚えており、医学研究者、教育者としての重要な部分を形成しています。今後も、時代の要請に応じた教育改革を行いながら、多くの方々のご協力のもとに、より良い医師、医療従事者、医学研究者の教育を行っていきたいと思います。