「神経系の発生・分化の分子機構解析の最近の進歩」


御子柴克彦(東大・医科研・化学研究部)


 脳神経系の構築過程の機序を理解する上で重要な点の一つは、細胞に特有な性質をもたらしている特異的に発現する蛋白質の解析である。 そうした蛋白質の遺伝子をクローニングし、その遺伝子の発現の機構を解明するアプローチの一つとして突然変異マウスを用いた研究がある。
 中枢神経系ミエリンには2つの主要構成蛋白質、ミエリン塩基性蛋白質(MBP)とミエリンプロテオリピド蛋白質(PLP)がある。 Shiverer ミュータントではMBP遺伝子に失欠変異のあることが解かった。 mld ミュータントマウスはMBP遺伝子の組み替えが起こり、細胞ごとにMBPの発現が異なる。 PLP遺伝子に変異を持つジンピー突然変異マウスではスプライス受容シグナル中の点突然変異であることが明らかになった。
 staggerer突然変異マウスでは小脳で高分子量の蛋白質が欠損していることが明らかになった。 この蛋白質はP400と呼ばれており正常マウスではプルキンエ細胞に豊富に存在している。 P400蛋白質遺伝子のクローニングにより全塩基配列が決定した。その結果、 P400蛋白質はIP3レセプターそのものであることが明らかになった。
 固体から遺伝子までを直結できる系としてミュータントマウスを扱ってきたが、最近はそれに加えて遺伝子学的手法の発達したショウジョウバミュータントを用いて神経系全般に重要な役割を果たしている遺伝子の解析を行なっている。 さらにショウジョウバエで見いだされた重要な遺伝子の多くがマウスにも保存されていることが判明した。
                             (文責 岡戸)

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