「相反性神経支配の脊髄機構とその機能障害」


田中 勵作 (東京都神経科学総合研究所・病態神経生理学研究部門)


  「相反性神経支配」reciprocal innervation という用語はイギリスの生理学者 C.S.Sherrington (1897) により提唱されたもので、運動を実行する際に主動筋の興奮 のみならず拮抗筋の抑制も相伴って生じることを表す。特に後者を「相反性抑制」と 呼ぶ。この仕組みは運動を円滑に実行するための基本と考えられており、基礎・臨床 神経学の重要な概念となっている。

Sherrington に端を発する近代神経生理学・脊髄反射学の発展により相反性神経 支配の仕組みを担うとみなされる脊髄内神経回路網の概要がかなり明らかになった。 その最も簡単・明確なものが、筋紡錘第一次終末・Ia群線維を起点とする反射回路網; 同名筋への単シナプス性興奮結合と拮抗筋への2シナプス性抑制結合である。しかも このシステムは大脳皮質運動野をはじめとする多くの上位運動中枢の支配を受けてい る。これらの詳細はネコ・サルを用いた急性動物実験から得られたものである。 これらの神経回路網が正常な運動実行時にどのような活動を示すかを知ることは、 相反性神経支配の仕組みを理解するために必須である。

私たちの研究は、これをヒト の随意運動時において確かめようとしたものである。脊髄反射回路の基本構成は動物 実験において単シナプス性反射を指標に用いて明らかにされた。ヒトでこれに代わる ものがH反射である。これを運動課題実験に組み込んで、健康人の運動実行時の運動 ニューロン・ Ia 抑制ニューロンの興奮性の変化を経時的に調べた結果を中心に解説 する。中枢性運動疾患における本システムの機能異常に関する成果についてもふれた い。

参考文献
田中勵作:随意運動調節の脊髄神経機構 − 筋電図学的解析
     神経科学レビュー、第3巻、61-91,1989.

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