「AMPA拮抗薬と抗脳虚血作用」


高橋 正泰(山之内製薬・薬理研究所)



 脳虚血による神経細胞障害の機序には、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸による神経の過剰興奮が関与していることが強く示唆されており、この過剰興奮に伴う神経細胞内へのカルシウムイオン(Ca)の過剰流入により、種々の酵素が異常に活性化され細胞機能が破綻すると考えられている(グルタミン酸過剰刺激仮説)。したがって、グルタミン酸受容体を遮断することは脳虚血による神経機能障害に対する有力な治療方法と考えられる。
グルタミン酸受容体は、電気生理学的および分子生物学的研究から、イオンチャネル型受容体と代謝調節型受容体の2つに大別され、イオンチャネル型受容体はさらにagonistに対する受容体親和性の違いから、N-methyl-D-aspartate (NMDA)受容体、α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazole propionate (AMPA)受容体およびカイニン酸(kainate)受容体の3つのサブタイプに分類される。AMPA受容体はカイニン酸の興奮性作用を媒介するのでAMPA/kainate受容体と呼ぶこともある。AMPA受容体はGluR1〜GluR4の4種類のサブユニットが5量体を形成してできており、GluR2によりAMPA受容体のCa透過性が制御されている。
近年、選択的な競合的AMPA拮抗薬としてキノキサリン骨格を有するNBQXが発見され、それ以降、YM90K、LY293558、PNQX、NS-257、S-17625-2等が合成された。当社のYM90Kは全脳虚血モデルの一つである砂ネズミ両側総頸動脈5分閉塞モデルにおける遅発性神経細胞死(DND)に対して脳虚血6時間までの投与により神経細胞保護作用を示した。局所脳虚血モデルに対しては、ラット中大脳動脈(MCA)閉塞モデル1)およびネコMCA閉塞モデル2) において脳梗塞の縮小が観察された。また、AMPA受容体にはNMDA受容体と同様にallosteric modulatory siteが存在し、この部位に選択的に拮抗する化合物として、GYKI52466、GYKI53655、SYM-2207等が報告されている。これらの化合物は、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させたAMPA受容体の電気生理学的研究から、非競合的AMPAおよびkainate誘発電流を抑制することが示されており、競合的AMPA拮抗薬と同様に、局所脳虚血モデルおよび全脳虚血モデルにおいて神経細胞保護作用が認められている。
脳虚血による神経細胞内Ca濃度の上昇の経路として、(1)AMPA受容体の活性化による脱分極により電位依存性のマグネシウムイオン(Mg)阻害機構が解除されCaチャネルが開口するNMDA受容体、(2)電位依存性Caチャネル、(3)GluR2サブユニットを欠くAMPA受容体および(4)AMPA受容体からのナトリウムイオン(Na)の流入に伴うNa-Ca交換体のリバース、等があげられる。AMPA受容体の遮断は膜の脱分極を抑制し、上記経路からのCaの流入を抑制する可能性が考えられる。AMPA拮抗薬はおそらく、これらの経路を遮断することで神経細胞保護作用を示すものと思われる。

1) Shimizu-Sasamata, M. et al.: J. Pharmacol. Exp. Ther. 276: 84-92, 1996.
2) Yatsugi, S. et al.: J. Cereb. Blood Flow Metab. 16: 959-966, 1996.

戻る