「手続き学習と記憶の神経機構」


彦坂興秀(順天堂大学・医学部・第一生理学)



記憶は、宣言的記憶と手続き的記憶の2種類に分けることができる。そのうち特に手続き的記憶のメカニズムはあまり明らかにされていない。その神経機構を調べるために、5つのセットから成る連続ボタン押し課題 (以後 2×5 taskとよぶ)をサルに訓練した。我々は、「一般に随意運動に関係するとされる脳の領域(大脳皮質前頭葉、大脳基底核、小脳)が、手続き的記憶においても重要な役割をもつ」という仮説にもとづいて実験を行った。もうひとつの仮説は、「記憶の獲得(学習)に必要な脳のメカニズムと記憶の長期的な保持に関係する脳のメカニズムは独立に存在する」ということである。これらの仮説を検証するために、GABA agonist のmuscimolを上記の脳領域に微量注入することによってその神経活動を可逆的にブロックし、そのときにおこる学習と記憶の障害を調べた。その結果、つぎのことが明らかになった。
1.「記憶の獲得(学習)に必要な脳のメカニズムと記憶の長期的な保持に関係する脳の メカニズムは独立に存在する」という仮説が支持された。
2. 大脳基底核の前方部は記憶の獲得に関係し、後方部は記憶の保持に関係する。
3. 大脳皮質の「前補足運動野」は、記憶の獲得に特に重要な役割をもつのに対し、「補足運動野」は運動の実行に関係する。
4. 小脳の歯状核は、長期記憶の保持のために必要である。


・Hikosaka O, Rand MK, Miyachi S, Miyashita K (1995) Learning of sequential movements in the monkey - Process of learning and retention of memory. J. Neurophysiol 74: 1652-1661.
・Hikosaka O, Sakai K, Miyauchi S, Takino R, Sasaki Y, Puetz B (1996) Activation of human presupplementary motor area in learning of sequential procedures: A functional MRI study. J Neurophysiol 76: 617-621.
・Miyashita K, Rand MK, Miyachi S, Hikosaka O (1996) Anticipatory saccades in sequential procedural learning in monkeys. J Neurophysiol 76: 1361-1366.
・Hikosaka O, Miyachi S, Miyashita K, Sakai K, Miyauchi S, Takino R, Sasaki Y, Puetz B (1996) Neural mechanisms of sequential procedural learning. In: Integrative and Molecular Approach to Brain Function (Ito M, Miyashita Y, eds), pp. 285-292. Amsterdam: Elsevier.

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