「シリコンで脳をまねる ―1000ニューロン100万シナプスシステム―」


平井 有三(筑波大学・電子・情報工学系)



1 はじめに
NEDOによる平成7年度提案公募型重点分野研究開発の助成により、7ビットの精度を持つ100万個の シナプスで完全結合した1,000ニューロンシステムを開発した。システムは1,000次元の非線形一次微分方程式で記述されたニューラルネットワークを、連続時間で解くことができる。1,000ニューロンのWinner-takes-allを実行させた結果、ワークステーションと比較して10,000倍高速であることが実証できた。
2 何故、何をまねるのか?
ニューラルネットワークをVLSIチップで作る目的は、人が持っている柔軟なパターン認識や記憶検索能力を実時間で実現することにある。その対象となる機能を大まかに分類すれば、以下の3つに集約できる。
1. 時間・空間フィルタリング 2. パターン認識・学習 3. 制約処理
時間・空間フィルタリングは、パターン認識のための特徴抽出の役割を担う。パターン認識・学習は、ものとものとの関係構造を記憶し、識別する。制約処理は、記憶された関係を満たす適切な情報を検索する役割を担う。開発したシステムには学習機能はないが、これらの機能を実時間で実行できる能力を持っている。
3 対象としたニューラルネットワーク
対象としたニューラルネットワークはフィードバック型(ホップフィールド)ニューラルネットワークである。これまで開発されたニューラルネットワークのハードウェアは、階層型がほとんどであり、大規なフィードバック結合をもつニューラルネットワークシステムの開発事例はない。ニューラルネットワークのダイナミクスを用いた制約処理や階層型ニューラルネットワーク、時間・空間フィルタリングなどを一つのシステムで実現できる汎用ニューラルネットワークシステムとなっている。学習機能はないが、ホスト計算機で学習した結果得られる全ての7ビットシナプス結合係数は、ダウンロードできる。また、個々のニューロンの時定数を変更できるようになっている。
4 今後の予定
今回開発したシステムをもとに、全世界どこからでもリモート・ログインして利用できるシステムを、平成9年度に開発する予定である。

参考文献
[1] Hirai,Y. :VLSI Neural Network Systems. Gordon and Breach Science Publishers: Birkshire 1992
[2] Hirai,Y. and Yasunaga, M. : A PDM digital neural network system with 1,000 neurons fully interconnected via 1,000,000 6-bit synapses. Proceeding of ICONIP'96 Hong Kong, pp.1251-1256, 1996

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