「アルツハイマー病の神経病理
特にグルタミン酸やGABA系の異常との関連について」
水上 勝義(筑波大・臨床医学系・精神科)
アルツハイマー病(AD)の神経細胞の変性脱落機序に関する仮説の1つにグルタミン酸受容体を介した興奮性毒性やカルシウムホメオスターシスの障害が挙げられている。AD剖検脳を用いてグルタミン酸やGABA受容体の変化について免疫組織化学的検討を施行した。その結果、細胞脱落に先行しAMPA型グルタミン酸受容体のGluR2サブユニットの免疫染色性が低下すること、またGluR2が陽性の神経細胞内には神経原線維変化(NFT)は出現せず、GluR2が陰性化するとNFTが出現することが示唆された。GluR2の低下はAMPA受容体を介した神経細胞内へのCaの流入の亢進をもたらし、その結果各種キナーゼ系の活性、NFTの形成などが引き起こされる可能性が推察される。AD海馬を用いたGABAA受容体の検討ではα1は病期の進行とともに低下し、β2/3は末期まで良く保たれていた。個々のmRNAを用いた in situ hybridization による検討ではβ2は保たれ、β3は低下した。すなわち、GABAA受容体の各サブユニットはADの病理に対してそれぞれ異なる反応を示すことが示唆された。このような変化のもつ意味について現時点では不明であるが、神経細胞の易損性を規定する一因かもしれない。
ところで海馬歯状回分子層には内嗅領皮質から perforant pathway が投射しているが、ADではこの投射経路が早期に障害されることが知られている。歯状回のグルタミン酸受容体やGABAA受容体の変化についても若干言及する。
参考文献
- Armstrong, D.M., Ikonomovic, M.D., Sheffield, R., et al.
"AMPA-selective glutamate receptor subtype immunoreactivity in the entorhinal cortex of non-demented elderly patients with Alzheimer's desease. " Brain Res., 639,
207-216, 1994
- Ikonomovic, M.D., Mizukami, K., Davies, P., et al.
"The loss of GluR2(3) immunoreactivity precedes neurofibrillary tangle fromation in the entorhinal cortex and hippocampus of Alzheimer brains."
Journal of Neuropathology and Experimental Neurology, 56, 1018-1027, 1997
- Mizukami, K., Ikonomovic, M.D., Grayson, D.R., et al.
"Immunohistochemical study of GABAA receptor β2/3 subunits in the hippocampal formation of aged brains with Alzheimer-related neuropathlogic changes."
Experimental Neurology, 147, 333-345, 1997