「新生仔期dopamine涸渇ラットの行動異常」


高砂美樹 (筑波大学・心理)


新生仔ラットの脳内に神経毒である6-hydroxydopamine(6-OHDA)を投与すると、永続的な脳内catecholamineの涸渇が生じる。6-OHDA投与をdesipramine前処置と組み合わせて脳内dopamineだけを選択的に涸渇させると、続く発達期から成体期にかけて、一連の行動異常が観察される。こうした行動異常のうち、我々の研究室では特に活動性と学習行動に焦点をあてて研究している。
 1.多動の出現
正常なラットでは生後2〜3週間に活動性、特に運動活動の増加が観察されるが、6-OHDA投与ラットではこの時期に統制群を上回る活動性の増加、すなわち多動がみられる。種々の行動項目について観察した結果、6-OHDA投与ラットの多動の特徴として、移動活動の増加と無動の減少、時間に伴って移動活動が減少する割合が小さいことなどが挙げられる。多動は離乳期にやや減少するものの、成体期にも依然として観察されることが最近の研究からも示されている。
 2.学習行動
学習課題として、これまで報酬性学習課題(八方向放射状迷路、左右弁別学習)と嫌悪性学習課題(一方向および二方向能動的回避学習、受動的回避学習、リアリング回避学習)をおこなってきた。離乳前後の時期におこなった左右弁別学習では習得の遅れが観察されているが、成体期の迷路学習からは、習得の遅れは訓練初期の探索行動の低下に起因すると考えられる。一方、回避学習課題では回避反応習得の阻害はもっぱら能動的回避課題でみられるとともに、嫌悪刺激である電気ショックに対する反応形態の差も観察される。これらの結果から、概して、6-OHDA投与ラットにおける学習行動の変化の根底には「慣化の低下」が存在すると考えられる。
  参考文献
1)岩崎庸男:多動症候群に挑む。「胎児は考える」第4章 (岩崎・島井編著)福村出版(1988)
2)高砂美樹・岩崎庸男:新生仔期6-hydroxydopamine処置ラットの発達期における左右弁別学習。
   薬物・精神・行動、10、315-321 (1990)

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