2021年 6月 11日

造血幹細胞を体外で増幅し自在な遺伝子導入を可能にする技術を開発

造血幹細胞は、赤血球・白血球・血小板といった様々な血液細胞へ分化する能力を持っており、血液がんや遺伝性血液疾患の治療への適用が進められています。しかしながら、造血幹細胞は骨髄中にわずかしか存在せず、採取後の増幅が不可欠です。


ドナーマウス由来の造血幹細胞を体外で大量増幅する技術として、ポリビニルアルコール(PVA)を添加した培地を用いる方法が報告されています。そこで本研究チームでは、この方法を応用し、造血幹細胞がごくわずかに含まれる骨髄細胞から、磁気ビーズを用いた免疫磁気細胞分離法とその後の簡単な培養操作のみで、造血幹細胞の機能を維持したまま選択的に純化・濃縮できる技術を開発しました。これにより、体外での造血幹細胞への遺伝子導入が容易になると同時に、その大量増幅もできることから、従来のような放射線照射などの前処置を用いることなく、移植が可能となりました。さらに、目的の遺伝子を導入する際の工夫により、正しく遺伝子導入された造血幹細胞のみを選別、移植することで、移植後の任意のタイミングで、マウス体内の血液細胞に目的の遺伝子を発現させることに成功しました。この方法では、移植後のレシピエントマウスへの放射線による組織障害がなく、長期間安定して飼育・観察することができます。また、生体マウスへの侵襲・組織傷害が少なく、動物愛護の観点からも優れた方法であると考えられます。これらのプラットフォームを用いることで、造血幹細胞の機能を、治療の目的に応じて自在にデザインすることが可能となりました。

プレスリリース PDF
Nature Communications     12, Article number: 3568 (2021)
DOI 10.1038/s41467-021-23763-z
Non-conditioned bone marrow chimeric mouse generation using culture based enrichment of hematopoietic stem and progenitor cells.
(造血幹前駆細胞を選択的に濃縮・増幅し、非前処置下に骨髄キメラマウスを作製)