研究内容
ウイルスのゲノムはそのゲノムがDNAであるかRNAであるかに関わらず、一般的に粒子に収納される際には、宿主由来あるいはウイルス自身がコードする塩基性のタンパク質と複合体を形成しています。この核酸-タンパク質複合体の形成によって、膨大なDNAあるいはRNAを小さな粒子に収納する事が可能になります。このような核酸のパッケージングは、実はウイルスにのみ特徴的なことではなく、宿主となる細胞のDNAあるいはRNAでも同様の方法で、DNAあるいはRNAをコンパクトにまとめています。例えばヒトの細胞ひとつの中には、30億塩基対ものDNAが収納されています。30億塩基対のDNAは伸ばすと数メートルになるといわれています。この長いDNAを直径わずか10ミクロンの細胞核に収納するために、DNAはヒストンと呼ばれる塩基性のタンパク質と複合体を形成してクロマチン構造をとっています。DNAがヒストンや他の塩基性タンパク質と複合体を形成していると、転写因子のDNAへのアクセスが制限され、DNAに刻み込まれた遺伝情報は読み取られません。遺伝子の転写あるいは複製が起こるためには、ウイルスでもヒトでも核酸-タンパク質複合体のリモデリングが必要になります。
我々の研究室ではアデノウイルスをモデル材料として、核酸-タンパク質複合体のリモデリングに関わる宿主因子を同定し、アデノウイルス増殖過程を明らかにするとともに、ウイルスゲノムのリモデリングに関わる宿主因子の非感染細胞における役割を明らかにしたいと、日々研究を進めています。ウイルスゲノムのリモデリング機構の解析をとおして、細胞のクロマチンリモデリングの分子機構を明らかにすること、さらに細胞核の構造形成の分子基盤を明らかにすることが目的です。我々の研究室では以下のような研究テーマに取り組んでいます。
1.アデノウイルス増殖に関わる宿主因子Nucleophosmin/B23/NPM1の機能解明
2.核小体構造形成の分子基盤の解明
3.ヒストンシャペロンによるクロマチン構造制御機構の解明
アデノウイルスは、近年ウイルスベクターへの応用が実用化されており、日本においてもいくつかのがん治療用ウイルスベクターとして用いられています。このような背景からも、アデノウイルスの病原性、増殖機構を解析することは非常に重要なテーマであると考えられます。また、アデノウイルスゲノムのリモデリングに関わる宿主因子として同定したNucleophosmin/B23/NPM1は、宿主細胞の細胞増殖に重要な役割を果たしている因子であり、その変異が白血病を始めとする多くの疾患で見つかっています。また、B23はがん抑制遺伝子であるp53タンパク質の機能制御にかかわる事が数多く報告されている事から、細胞のがん化とのかかわりが深いものと考えられています。