感想記


広島大学大学院・総合科学研究科・教授  斎藤祐見子
  平成19年7月26日~28日、東京大学において平成19年度班会議と国際ミニシンポジウムが執り行われた。私自身は昨年9月の班会議に続いて2度目の出席であり、終始ペンを走らせる充実した3日間を過ごした。その充実感は、日本の情報伝達研究を世界トップレベルにまで牽引している評価委員の先生方の座席位置にも起因する。その場所から、そして勿論他の先生方からも飛び交う高密度な応答(時には容赦ない)は本会議を大変活況あるものにしていた。班会議は、ポスター発表形式で引き続き継続され、あちらこちらで活発な議論・情報交換が行われていた。その様子は大人数が集まる学会のポスター会場とは一味も二味も異なるものである。「G蛋白質の基本原理を展開する」という共通の目標の下で、クローズドの班会議では、血が騒ぐ実践的な意見を交換し、リソースを共有し、共同研究が生まれ、新しい視点を養っていく。こんなメンバーの揃っている班にずっと参加したい、、、と願っても研究の世界は甘くない。公募班は来年にはイチから仕切り直しである。「またお会いできたら嬉しいです」的な国会解散時の議員にも似た寂寞感と圧迫感もまた本班会議の魅力かもしれない。
前回の札幌における報告会では、初めて公募に加わった方全員の発表で研究背景及び今後の方針のプレゼンが中心であった。今回も前回同様、班員全員の発表である。皆さんにやってきたことをしっかりと評価・批判して頂き、今後のサポートに繋げたい気持ちがあるため、気迫に満ちた発表が続いた。記憶に残っている札幌演説もあり「うーん、所信表明に沿ったデータが揃っている!」と何回思ったことか。公募班には採択期間中に新しく研究室を立ち上げた方が私も含めて数人いる。引越し作業というラグタイムが存在しなかったかのような「え、まだデータがあるの?」という進行状況にはかなり驚き、実は非常にあせった。ラボ立ち上げはラグタイムではなく、頭を切り替えて新境地の開拓に向かう最大のチャンス、ということか。さて、生命科学における生化学・分子生物学は「どちらが早いか」的な競争の要素が濃い場合がある。従って多くの聴衆を対象とした伝播の早い学会講演では、論文に投稿中で駆け引き真最中のデータ、そして論文にもしていないホットなデータはプレゼンしないことが多い。ところが本会議における口頭発表の中には福田先生、横溝先生、齋藤先生、渡邊先生、堤先生などsolidな本データの他にも“そうそう、これってこの前出たデータだけど面白いと思うので紹介しますね”的なプログレスリポートも含まれていた(誤解していたらごめんなさい)。更に、ミニ国際シンポジウムにおける柳先生のCRAGとポリグルタミン病とのvivoにおける見事な密接な関連性、そしてLanier博士のあるAGSの思いもかけない生理的意義は目が釘付けとなった。何とこの2つとも論文には未発表のデータであるとのこと。このような発表ができる環境は研究の臨場感を高める。
今回、この班会議に参加させていただき、自分自身のプロジェクトの進行について「そうか、あれをやってみよう!」と言うインスピレーションを得て広島へ戻ってきた。研究室から参加したポスドクは他分野から転向したG蛋白質初心者であるが、密度濃い本会議に新鮮な感動を覚え、実験に益々弾みがついている。また班員同士の交流も進み、会議終了した直後の月曜日11時半にはプラスミド10種類を送り出した。会議で新たに勉強させていただいたことも多く、今後の研究に生かしたい。今度どこかで話す機会があれば「斎藤が話した内容は眠かったね」等のご批判を受けることのないよう、研究生活に改めて精進していく覚悟である。
最後に、領域代表の堅田先生、運営にご尽力された先生方と、この印象記を書く機会を与えてくださった金保先生に深謝致します。







岐阜大学工学部生命工学科・准教授   上田浩
  平成19年7月26日から28日までの3日間にわたり、東京大学本郷キャンパス山上会館にて平成19年度班会議と国際ミニシンポジウムが開催されました。開会の挨拶では、領域代表者の堅田先生から、本領域研究のこれまでと今後どのように推進していくのかについて説明がなされました。特に、本年度は、中間評価の年であるとともに後半残り2年間へのつながりの年として、もう一度この領域研究の研究概要を見つめなおし、更なる発展を強く求められていると感じられました。
続いて、各班員から、過去1年間に行われてきた研究成果が発表されました。初日、2日目の班会議では、34演題の口頭発表と29演題のポスター発表が行われました。自分自身が扱ったことがない線虫やショウジョウバエにおけるG蛋白質シグナルのお話から、数式を駆使した理論的な解析のお話まで、どの内容も大変興味深い発表ばかりでした。特にG蛋白質シグナルが関与する細胞や組織のダイナミックな動きを捉えた映像が大変印象に残りました。そして、それらの映像を通して改めてG蛋白質シグナルの様々な細胞機能への関与を認識できました。最終日の国際ミニシンポジウムでは、海外から招かれた4名と班員6名による講演があり、活発で充実した討論がなされました。その中で、Richard A. Kahn博士については、その人となりを以前知り合いの先生から伺っていたので、それもあいまって今回のArl2関連の話も含め興味をもって聞くことができました。また、最終演者のJ. Silvio. Gutkind博士は、膨大なデータを示しながら、ウイルスのG蛋白質シグナルを利用したがん化促進について、大変興味深い話をされました。私にとって、これまで聞く機会のなかった海外の先生方のお話を直接聞くことができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。今回の会議全体を通じて、論文を読むだけではなく、著者本人から直接お話を聞くことの大切さを改めて感じました。
学生の頃、三量体G蛋白質シグナルの研究に非常に興味を持ち、自分なりに論文を読み、学会などで論文著者の方々の話を聞くとさらに勉強できた気になっていたことを思い出します。しかし、本当は勉強した気になったことを、実際にいかせるかということがもっと重要であるということも感じていました。今回も含め、班会議で最新の研究結果や実験に関することなどを、直接多くの先生方から聞くことができ、私にとってこの会議は非常によい勉強の場になりました。だからこそ、会議に参加することによって得たものを、実際の研究にどのようにいかせるかをよく考え、本領域研究の発展に少しでも貢献できればと思います。最後に、あらためて班の運営にご尽力をいただいている総括班の先生方に心から感謝いたします。






大阪大学大学院医学系研究科分子生物学・助手  扇田久和
  本年度の当特定領域研究の班会議は平成19年7月26日、27日の2日間にわたって東京大学山上会館で行われました。さらに、この班会議に引き続いて7月28日には海外よりG蛋白質研究に関する著名な研究者を4名(Dr. Patrick J. Casey, Dr. Stephen M. Lanier, Dr. Richard A. Kahn, Dr. J. Silvio Gutkind)招待して、当特定領域研究のメンバー6名と共に国際ミニシンポジウムが催されました。
 私は平成18年度に公募でこの特定領域研究に採用していただきましたので、班会議に参加するのは今回が2回目になります。約3年ほど前に現所属の高井研究室にお世話になるまでは、主に循環器内科医として仕事をしていましたため、G蛋白質に関する知識も、GqがCa2+シグナルを介して心肥大に関係するとか、Rho-ROCK系が血管のトーヌスを制御するといった心血管系に関する断片的なものでしかなかったのですが、この様な班会議に参加させていただき、G蛋白質に関する知見について様々な角度から体系的に学べることは私にとって非常にありがたいことです。特定領域の各班の研究内容は植物・酵母からヒトを含めた哺乳動物まで多岐にわたり、私がこれまで扱ったことのないような対象・材料や技術を含んでおりますが、各研究班の代表者が要点を押さえて分かりやすく発表されているので、理解しやすく勉強になります。特に、FRETなどの最新のイメージング技術を使った研究は生きた細胞でG蛋白質シグナルの挙動を観察できる点は極めて有用だと思いました。
 27日夕方からは、各研究班に所属する大学院生、ポスドクの方が中心になって29題のポスター発表がありました。懇親会前の1時間はポスター会場内での通行が困難になるほどの人盛りと熱気で、各ポスター前では発表者と質問者の間で熱心な討論が繰り広げられていました。この中から、最優秀および優秀ポスターを選出するということで、僭越ながら私も投票させていただきました。懇親会前の時間だけでは十分にみることができず、懇親会中にもポスターを回らせていただいたのですが、どのポスターもレベルが高く2題に絞るのが大変でした。最優秀および優秀ポスターに選出された方々にとっては、これからの研究により一層の励みになるのではないかと思います。
 3日目には、海外からの招聘研究者と合同でG蛋白質シグナルに関する国際ミニシンポジウムが開催されました。個人的な印象としては、このミニシンポジウムでは病気と関連した演題が多かったように思います。例えば、海外からの演者の中では、前立腺がんで発現が増加するG12がRho-ROCKおよびJNKを介してがんの転移に関与するというDr. Caseyの発表や、AGS3ノックアウトマウスが心血管系に作用して血圧を低下させるというDr. Lanierの演題、また、カポジ肉腫に関連するヘルペスウイルス(KSHV)がvGPCRを発現して内皮細胞を形質転換し、vascular tumorの発症に関係するというDr. Gutkindの発表がありました。この様な発表以外にも、G蛋白質およびそのシグナル伝達が様々な病態と関わっていることが明らかになっていますが、それぞれの病態に対する治療法の開発や創薬についてはまだほとんど実現していないというのが現状だと思います。私個人としては、この分野での臨床応用的な研究の発展に非常に興味を持っておりますし、さらに、この様な研究に積極的に関わっていけたら、という希望も持っています。
 これまで2回の班会議では、各班の代表者が発表される最先端の話題をフォローするだけで手一杯でほとんど質問立てなかったのは残念でしたが、今後の研究のヒントになるいろいろな情報が得られて大変役に立ちました。また、演題を聞いていますと、多くの研究班で昨年の発表から今年までの一年間に研究にかなりの進展があり、私自身にも大きな刺激になりました。日常の研究室での遅々とした進行には時として滅入ることもあるのですが、この様な会でお話を聞いていますと、やはり小さくともコツコツとした積み重ねが大切だと再認識いたしました。最後になりましたが、当日の班会議の運営に当たられました堅田研究室の皆様にお礼申し上げます。





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