研究内容

我々の研究室では、注意や情動、推論、学習、意思決定、意欲などの心理現象を実現する脳のメカニズムを解明することを目標に研究しています。そのため、ヒトに近い脳の構造を持つサルに様々な認知行動課題をおこなわせ、その際に脳がどうのように活動するのかを電気生理学的な手法を用いて調べています。そして、その活動を脳局所への薬物投与や電気刺激によって操作することにより、脳の活動が認知機能や行動制御に果たす役割を解析しています。

現在進行中の主な研究テーマとしては、以下のものがあります。

光操作技術による基底核ドーパミン回路の機能局在解明と機能再建

(CREST採択課題)

中脳(黒質緻密部および腹側被蓋野)に分布するドーパミンニューロンは報酬シグナル(特に報酬の価値に関わるシグナル)を伝達する神経系として注目されており、報酬を得るための学習や動機づけに重要な役割を果たすことがよく知られています。他方、ドーパミン神経系の異常は運動機能障害や認知機能障害など、必ずしも報酬機能とは直接関係のない障害をも引き起こします。これまで報告されてきたドーパミンニューロンのシグナル伝達とその破綻による臨床所見の間には大きなギャップがあり、ドーパミン神経系の異常がどのようなメカニズムで多様な脳機能障害を引き起こしているかについては未だ明らかになっていません。
我々の研究室では、ヒトに近縁なマカクザルに光による神経回路介入操作技術(光遺伝学)を適用し、霊長類においてドーパミン神経系が様々な運動・認知機能に果たす役割を研究しています。特に現在は、注意欠陥・多動性障害やパーキンソン病で異常が見られる行動抑制や、日常生活の様々な場面で求められる価値判断に注目して、これらの機能に対するドーパミン神経系の役割を解析しています。

行動抑制の脳内メカニズム

我々が社会生活を送る上で、衝動的な行動や不必要な行動を抑制することは極めて重要です。注意欠陥・多動性障害やパーキンソン病などの精神・神経疾患の多くの患者さんでは、この行動抑制の能力が低下しています。これらの疾患の多くではドーパミン神経系に異常が見られることから、我々の研究室では、ドーパミン神経系とその入力を受ける大脳基底核線条体に注目して行動抑制の脳内メカニズムについて研究しています。これまでの研究の中で、行動を抑制することが求められる認知課題をヒトに近縁なマカクザルが遂行しているときに、黒質緻密部のドーパミンニューロンから線条体の中の尾状核に対して、不適切な行動を抑制するための神経シグナルが伝達されていることを発見しました(下の記事は日本経済新聞2018年11月19日朝刊より)。

脳による血液循環・呼吸調節メカニズム

脳による血液循環および呼吸運動の微細なコントロールは生体の恒常性維持にとって重要な役割を果たしています。それゆえ、これらのシステムが正常に働かない場合には、重大な疾患をもたらすことになります。しかしながら、その実態については、未だに多くのブラックボックスが存在しています。当研究室では、そのブラックボックスを明らかにするために、ラットまたはマウスのin vivo標本およびin situ標本(経血管灌流標本)を用いて、主に電気生理学的手法を用いた循環調節中枢および呼吸中枢の詳細な解析を行っています。現在、特に、①循環調節中枢ニューロンの化学受容性についての解析、②呼吸-循環連関についての解析、③それらの破綻によってもたらされる疾患の解析を行っています。