研究成果

発表論文報告(計画研究班A01-1永田)

概要

インフルエンザウイルスの感染様式には、細胞外へ遊離したウイルス粒子により感染が伝播されるcell-free感染と、細胞間の接触面でウイルスが伝播するcell-to-cell感染の二つの様式がある。Cell-to-cell感染では、cell-free感染を阻害するタミフル存在下でも局所的に感染拡大するだけでなく、タミフルにより細胞表面に蓄積した子孫ウイルス粒子群の共感染も引き起こすことから、致死的変異ウイルスもウイルス集団に残存し、Quasispeciesの拡大に寄与することが推測された。そこで、インフルエンザウイルスのcell-to-cell感染が、ウイルス集団への致死的変異ウイルスの残存に寄与するかを検討した。ts53株とts1株の温度感受性変異は異なる分節に導入されているため、遺伝子交雑により野生株が産生される。非許容温度でts53株とts1株の共感染をおこない、子孫ウイルスの温度感受性を調べたところ、タミフル非存在下では野生株のみが観察されたのに対し、タミフル存在下では野生株のみでなくts株も観察された。これより、タミフル存在下では致死的変異株は野生株との共感染により野生株由来のウイルス因子に相補され、致死的変異株のゲノムが野生株のゲノムとともに選択を受けずに隣接した細胞に伝播されることが示唆された。Cell-to-cell感染ではウイルスポリメラーゼにより導入される突然変異においてもウイルス集団に蓄積されるか検討するため、次世代シーケンサーを用いてウイルスゲノムの多様性を調べた。その結果、タミフル非存在下ではウイルス集団への変異の蓄積数に顕著な増加は観察されなかったが、タミフル存在下ではミスセンス変異の顕著な蓄積が観察された。これより、cell-to-cell感染では変異がウイルス集団内に維持されることで、Quasispeciesの多様化に寄与することが示唆された。ウイルス集団に劣勢変異が維持されることで新たな変異が加わる機会が生まれ、ウイルスの環境応答や薬剤耐性化、進化に寄与すると考えられる。