研究概要
  細胞情報ネットワークに介在するアティピカルG蛋白質群の生理機能の解析
  G蛋白質シグナルによるリン脂質代謝制御と細胞形態制御の分子メカニズム解析
  低分子量G蛋白質間のコミュニケーションを介する神経回路形成の機構解析
  G蛋白質シグナルによる物質輸送ダイナミクスのバイオイメージング解析
  G蛋白質シグナルによる細胞構造改変プロセスの単分子イメージング解析
  RGS蛋白質によるG蛋白質シグナルの生理的制御機構の解明
  G蛋白質シグナルネットワークの構築による心機能の制御機構解析
  G蛋白質シグナルを制御する新規分子群の同定と情報ネットワークにおける役割の解析

  細胞情報ネットワークに介在するアティピカルG蛋白質群の生理機能の解析
[研究代表者]堅田 利明(東京大学・大学院薬学系研究科・教授)
[研究分担者]紺谷 圏二(東京大学・大学院薬学系研究科・助教授)
[研究分担者]福山 征光(東京大学・大学院薬学系研究科・助手)
[研究分担者]梶保 博昭(東京大学・大学院薬学系研究科・助手)

 GTP/GDP結合のコンホメーション転換を利用したG蛋白質シグナル伝達系は広範な細胞機能の発現に介在している。これまでに、三量体G蛋白質、Ras、Rab、Rho/Rac、Arfなどといった低分子量G蛋白質、さらに翻訳因子のG蛋白質群が同定され、それらは受容体から細胞内へのシグナル伝達器として、また細胞の分化・増殖、小胞輸送、接着・形態形成や翻訳の制御因子として多彩な細胞機能に介在することが明らかにされてきた。しかしながら、既存のサブファミリーには属さない機能未知のG蛋白質も数多く残されている。ゲノムプロジェクトの成果を活用してユニークな新奇G蛋白質を単離・同定し、その機能を解析することは、新しいG蛋白質シグナル伝達系の解明、さらにはG蛋白質の多様性と特異性の理解に貢献する。本研究では、一次構造や生化学的性状(GTP結合型を好むなど)、組織・細胞内局在の視点から、アティピカルな新奇のG蛋白質群を網羅的に同定し、それらの動的制御機構、細胞・個体レベルでの生理的役割を独自の評価系を用いて解析する。G蛋白質の異常は癌をはじめとする様々な疾病の原因となることも知られており、新奇分子を含めたG蛋白質の包括的な解析は、治療薬の新たな開発に貢献し得る可能性も高い。


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  G蛋白質シグナルによるリン脂質代謝制御と細胞形態制御の分子メカニズム解析
[研究代表者]金保 安則(筑波大学大学院人間総合科学研究科・教授)
[研究分担者]横関 健昭(筑波大学大学院人間総合科学研究科・講師)

 低分子量G蛋白質のARFがリン脂質代謝酵素のホスファチジルイノシトール 4-リン酸 5-キナーゼ(PIP5K)の活性化因子として機能すること、およびこのARF→PIP5Kシグナル伝達系がダイナミックな細胞膜変形を伴うラッフル膜の形成に重要な役割を果たすという、低分子量G蛋白質とリン脂質代謝の新奇なシグナル系クロストークとその生理機能を見出した(図参照)。そこで、個体レベルおよび細胞レベルで低分子量G蛋白質ARFによるリン脂質代謝制御を介した細胞形態制御の分子メカニズムを解析し、生命現象における新奇なG蛋白質とリン脂質代謝のクロストークシグナル伝達系の生理機能を明らかにすることを目指す。

図:ARF→PIP5Kシグナル伝達系におけるラッフル膜形成機構
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  低分子量G蛋白質間のコミュニケーションを介する神経回路形成の機構解析
[研究代表者]根岸 学(京都大学・大学院生命科学研究科・教授)
[研究分担者]加藤裕教(京都大学・大学院生命科学研究科・助教授)
 

 脳高次機能発現を可能にしている複雑な脳神経系の構築には,様々な低分子量G蛋白質による互いに連携した機能発現が大きく寄与している.RasファミリーやRhoファミリーの個々のG蛋白質の分子機能の解析の上に,それらの間で行われるコミュニケーションや協調作用を解明し,神経回路形成においてG蛋白質が果たす役割の全体像を解明する.

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  G蛋白質シグナルによる物質輸送ダイナミクスのバイオイメージング解析
[研究代表者]望月 直樹(国立循環器病センター研究所・循環器形態部・部長)
[研究分担者]藤田 寿一(国立循環器病センター研究所・循環器形態部・室長)
[研究分担者]増田 道隆(国立循環器病センター研究所・循環器形態部・室長)
[研究分担者]福原 茂朋(国立循環器病センター研究所・循環器形態部・室員)

 RasファミリーG蛋白質のエフェクター分子が微小管に局在すること,モーター分子と結合するという新しい知見から,細胞内の物質輸送を調節する機能を予想させる結果を得た.物質の輸送と制御分子の活性化という時間軸・空間軸の広がるダイナミズムをG蛋白質及びその制御因子のバイオイメージングを駆使して解析する.さらに,他のG蛋白質シグナルとの共調機構やヒエラルヒーによる正確な分子輸送の調節機構を解明する.

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  G蛋白質シグナルによる細胞構造改変プロセスの単分子イメージング解析
[研究代表者]渡邊 直樹(京都大学・大学院医学研究科・助教授)

 細胞構造への会合する分子では、細胞構造への結合・解離キネティクスを1分子レベルで可視化し、捉えることができる.この手法をG蛋白質の1つ、Rhoの標的蛋白質であるmDia1に応用し、mDia1が重合するアクチン線維端に結合したまま,プロセッシブに分子移動することを見出した.mDia1を中心に、細胞構造に会合するシグナル分子の単分子動態を追う特異点観測を用いることで,細胞内という多数の分子相互作用が絡みあう複雑系において,G蛋白質シグナルの作用特異点を捕捉する.

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  RGS蛋白質によるG蛋白質シグナルの生理的制御機構の解明
[研究代表者]倉智 嘉久(大阪大学・大学院医学系研究科・教授)
[研究分担者]稲野辺 厚(大阪大学・大学院医学系研究科・助教授)
[研究分担者]石井 優(大阪大学・大学院医学系研究科・助手)

 RGS(Regulator of G protein signaling)蛋白質は三量体G蛋白質αサブユニットの内因性GTP加水分解活性を促進し,G蛋白質サイクルを調節する因子である.現在約20種類にも及ぶRGS蛋白質が同定され,それらの重要性が示唆されているが,RGS蛋白質が具体的に如何にしてG蛋白質シグナルの生理的調節を行っているのかについては未解明である.本研究では,RGS蛋白質の作用様式・その調節因子を詳細に解析し,RGS蛋白質によるG蛋白質シグナルの生理的調節機構を統合的に解明する.

 培養細胞に発現させたCalmodulinとRGS蛋白質RGS4との相互作用がFRET(fluorescent resonance energy transfer)によって確認された(Ishii, M., Ikushima, M., and Kurachi, Y. Biol. Biochem. Res. Commun., in press)。
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  G蛋白質シグナルネットワークの構築による心機能の制御機構解析
[研究代表者]黒瀬 等(九州大学・大学院薬学研究院・教授)
[研究分担者]西田 基宏(九州大学・大学院薬学研究院・講師)

 細胞内の酸化還元レベルの恒常性は厳密に制御されており,その破綻は様々な疾患の原因になり得ると考えられている.しかしながら,局所的に生じた活性酸素が酸化還元状態を変化させ,細胞シグナルに積極的に関与している可能性が報告されるようになった.本研究では,心臓においてG蛋白質を介した活性酸素産生の細胞内シグナリングへの関与および心機能の調節に果たす役割を確立する.

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  G蛋白質シグナルを制御する新規分子群の同定と情報ネットワークにおける役割の解析
[研究代表者]伊東 広(奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科・教授)
[研究分担者]水野 憲一(奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科・助手)

 G蛋白質と相互作用してG蛋白質シグナルを増強する分子,あるいは逆に抑制する分子,さらにシグナル伝達の効率化および特異性に関与する新規分子群の解析を行う.これら新規分子群の細胞内局在の動的制御機構,細胞レベルでの生理的役割を解明し,細胞内情報ネットワークの新たな構築を図るとともに,そのネットワークを調節するシステムの特異性と共通性を規定する分子基盤を解明する.

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