「グリア細胞の嗜銀性・タウ陽性構造物の分類と性質、その細胞骨格異常疾患における意義について」


池田研二(東京都精神医学総合研究所・神経病理部門)


  近年、グリアの機能面の研究では、ニューロンの支持や栄養補給、ミエリン形成などの補助的役割に加えて、神経発育や再生をリードすることなどの重要な発見があり脚光を浴びている。神経病理学では、第6回国際神経病理学会で、Seitelberger がグリアの一次変性として glial syndrome という概念を提唱したが、その後はほとんど省みられることなく、アルツハイマーII型グリアの研究を除いては目ざましい進展はなかった。しかし、最近になって、ニューロンのみに出現すると考えられていた paired helical filament が進行したアルツハイマー病のアストロサイトにも出現することが示された。これとは別に、細胞骨格異常に伴う神経変性疾患のグリア系細胞に、嗜銀性で抗タウ抗体に陽性を示す数種類の異常構造物が出現することが次々に報告され、glial fibrillary tangle (GFT) と名付けられた。これは免疫組織化学とGallyas 染色が神経病理の検索に導入されたことが大きく、一連のグリア細胞の異常はGallyas pathology あるいは tau pathology の側面をもつ。Neurofibrillary tangle ( NFT) も含めて、これらの異常構造物は疾患の変性過程に伴う二次的産物である可能性もあるが、細胞の変性過程の解明の鍵となるひとつの所見である。
 GFTはアストロサイト、オリゴデンドログリアのいずれにも形態の異なるタイプが認められているが、それぞれ同じタイプが異なる名称で報告されたり混乱があるので、グリア細胞種、形態、分布領域を考慮して、現時点での妥当な分類を行なった。この分類にしたがって、各タイプのGFTについて、NFTと比較した組織化学および免疫組織化学的性質、ガリアス電顕と免疫電顕所見をNFTと比較した。各タイプのGFTは検索したすべてのタウ抗体に陽性を示したが、ユビキチンには陰性であり、微細構造もアストロサイト由来のATとオリゴデンドログリア由来のOTで相違があった。GFTがNFTのcounterpart であるか否かなど、GFTについて解明すべき今後の問題点が多い。各GFTの細胞骨格異常疾患での疾患親和性について、アルツハイマーII型グリアを伴う肝性脳症、グリオーマほかのグリア細胞に異常のある対照疾患を含めて検討した結果、GFTは細胞骨格異常を伴う疾患である進行性核上麻痺、corticobasal degeneration、dementia with argyrophilic grains、NFT を伴うSSPE 、ピック球を伴うピック病を中心に出現するが、アルツハイマー型痴呆とその関連疾患ではむしろ親和性が乏しかった。さらに、各タイプのGFTには、異なる疾患親和性があることが明らかとなった。GFTの存在や疾患親和性が明らかになるにつれて、これまでニューロンを中心に考えられてきた神経変性疾患の概念は、少なくとも一部の疾患においてはグリア系を含めて再考する必要がある。

Classification
Nomenclature Synonyms
glial fibrillary tangle (GFT)
Astrocytic tangle (AT)
Tuft shaped AT Tufts of abnormal fibers (Hauw,1990)
Star-like tufts of fibers (Yamada,19921)
Astrocytic inclusions (Amano,1992)
Spider-like shape (Ikeda,1993)
Thorn shaped AT Thorn-like shaped (Nishimura,19922)
Oligodendroglial tangel (OT)
Coiled-shaped OT Coiled bodies (Braak,1989)
Oligodendroglial microtubular masses (Yamada,19933)
Coiled type of oligodendroglial inclusions (Ishizu,1992)
Argyrophilic thread (incl. neuropil thread, threads originate from glial processes)
Argryophilic thread-like structures (Ikeda,19944)
参考文献
1. Yamada, T. et al.: Appearance of paired nucleated, Tau-positive glia on patients with progressive supranuclear palsy brain tissue, Neurosci. Lett. 135: 99-102, 1992
2. Nishimura, M. et al.: Glial fibrillary tangles with straight tubules in the brains of patients with progressive supranuclear palsy. Neurosci. Lett. 143: 35-38, 1992
3. Yamada, T. et al.: Oligodendroglial microtubular masses: an abnormality observed in some human neurodegenerative diseases. Neurosci. Lett. 120: 163-166, 1990
4. Ikeda, K. et al.: Argyrophilic thread-like structure in corticobasal degeneration and supranuclear palsy. Neurosci. Lett. 174: 157-159,1994

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