ご挨拶
玉岡晃、写真
筑波大学大学院人間総合科学研究科
病態制御医学専攻 神経病態医学分野(臨床医学系 神経内科)教授
玉岡 晃
大学の臨床医学部門では社会的使命として、まず第一に責任感と協調性のある優秀で有能な臨床医の育成を目指さなければならないと思っております。その目的のために今後の教育改革を導入しながら、筑波大学の優れた伝統、則ち学群での統合教育や卒後臨床研修でのレジデント制度などの利点を生かしてまいりたいと思っております。医学的知識の伝授にあたっては、単に授業形式による知識の伝達を行なうだけではなく、洞察力と自己発展性を身につけさせるように、チュートリアルなどの自己学習能力を備えさせるためのカリキュラムの充実・改革に力を注いでまいりたいと思います。また、医学教育は卒前・卒後教育が有機的に連携して行なわれることが理想的であると考えておりますので、そのためには、客観的臨床能力試験(OSCE)や問題志向型の思考訓練の徹底が重要であると考えております。こうした能力の開発を実践するために、POS(problem-oriented system)の考え方に馴染ませていくと同時に医療技術に関しても常にスタンダードなものを習得させるよう、日常の回診や実習における教育にあたりたいと思います。大学附属病院における診療は高いレベルが要求されておりますので、これに答えるべく職員とともに日夜努力することによって、より良き診療内容の達成を日夜心がけたいと思います。このこともレジデントや学生にとっての理想的な教育施設としての大学病院の使命の成就に寄与するものと確信しております。

大学の臨床医学部門のもう一つの重要な使命は、臨床医学、即ち疾患の原因究明を初めとする病態研究であり、このような領域で活躍できる研究者を臨床医の中から育成しなければなりません。神経内科学においては特に、近年のニューロサイエンスの進展の強い影響のもとにあり、臨床医学の場においてもある程度基礎的な研究成果を理解する能力が要求されることが多くなってきました。このような、言わばリサーチマインドを有する臨床医、臨床系大学院生を、研究の場ばかりでなく、セミナーや抄読会などの様々な機会を通じて育成していきたいと思います。私は東京都老人総合研究所にてアルツハイマー病(AD)の研究を開始して以来、ハーバード大学、筑波大学と一貫して、主にADを中心とする神経変性疾患の分子病態の解明に取り組んできました。特に筑波大学に赴任してからは、アミロイドβ蛋白の識別定量、老化動物脳、頭部外傷によるADモデル動物、慢性脳低灌流のADモデル動物などに関する有意義な共同研究を、つくばの各種研究施設と行なってきました。神経内科領域には未だ原因不明の難病が多いため、今後はAD研究を更に進展させるとともに、研究対象をパーキンソン病や多系統萎縮症、タウオパチー、筋萎縮性側索硬化症、トリプレットリピート病など、他の神経難病にも拡大していきたいと思っております。

筑波大学神経内科は以前より、茨城県下および近隣地域の神経・筋疾患のセンター的な機能を期待され、担ってまいりました。茨城県神栖町で発生した有機ヒ素中毒患者の発見も全般的な質の高い神経内科の臨床が背景にあって初めて可能となったものと考えられます。神経疾患は高齢者に有病率が高く、我が国の急速な高齢化に伴い、神経内科の需要は益々増えております。また環境汚染等に由来する未知の神経障害を経験する可能性も考えられます。今後も筑波大学神経内科が高い水準の臨床を維持できるように努力するとともに、安全確保に配慮し、個人情報保護を遵守し、十分な説明を行なう、患者中心の全人的医療を実践してまいりたいと思います。

[学生やレジデントの皆様への一言]

高齢化社会を迎え、神経内科の需要は益々高まっております。実際茨城県北、県中はもちろん、つくばエクスプレスや常磐線沿線、都内の基幹病院からの神経内科医の要請に応じきれないのが現状であります。疾患研究から基礎医学の道にすすむ者、脳卒中の救急医学に従事する者、慢性疾患のリハビリを得意とする者、教育職に進む者、等々、神経内科医の進路は極めて多種多様であり、各人の価値観や生活設計に応じて多彩な選択が可能であります。神経に興味のある学生やレジデントの方が一人でも多く、神経内科に参加してくれることを期待しております。御興味野ある方は是非御一報いただければ幸いです(atamaoka@md.tsukuba.ac.jp)。

【桐医会会報 59:23?24,2006 より一部改変して引用】