Killer cell Ig-like receptor (KIR), leukocyte Ig-like receptor (LILR) 多型と

免疫疾患との関連

KIRおよびLILR遺伝子群は、ヒト第19染色体長腕19q13.4に位置するleukocyte receptor complex (LRC)に隣接して存在し、それぞれ十数個の活性化型、抑制型および可溶型遺伝子群からなる多重遺伝子ファミリーです1)

KIRは、NK細胞や一部のT細胞に発現し、抑制型のKIRは、HLA-class I を認識します。KIR遺伝子群には、塩基配列レベルでの多型に加え、遺伝子座自体の有無による多型が顕著に存在します。この結果、ある個人がゲノム中に有するKIR遺伝子の数には、7-14種類という大きな個体差が存在します。これまでに多数のKIRハプロタイプが見出されており、それらは、7遺伝子座から構成されるA群ハプロタイプと、それ以外のB群ハプロタイプの2グループに大別され、B群ハプロタイプには活性化型KIRがより多数コードされています。日本人集団ではヨーロッパ系集団と比較してA群ハプロタイプの頻度が高く(約80%)、約60%がA群ハプロタイプのホモ接合体です。

KIRHLA (6p21.3)は、別の染色体にコードされているために、独立に遺伝します。従って、KIRとHLAの組み合わせにより、HLA-KIRを介するシグナル伝達に遺伝的個体差が生じる可能性が考えられ、実際、これまでに、いろいろな自己免疫疾患やウイルス感染との関連が報告されています。

われわれは、厚生労働省「難治性血管炎に関する調査研究班」の研究分担者として、日本人の顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis, MPA)のHLAおよびKIRの検討を行いました。

まず、HLAの検討を行ったところ、アジア集団では頻度が高いものの、ヨーロッパ系集団にはほとんど存在しないHLA-DRB1*0901-DQB1*0303ハプロタイプが、オッズ比約2.3でMPAに有意に増加していることを見出しました。このことが、ヨーロッパ系集団と比較して、日本においてMPAの頻度が高いことの背景に存在する可能性があると思われます2)

次に、KIRの14遺伝子座の有無を検討したところ、活性化型受容体であるKIR2DS3の陽性率が、MPAでは有意に減少していることがわかりました3)

さらに、リガンドであるHLAとKIRとの組み合わせを検討したところ、KIR3DL1/3DS1とHLA-Bw4との組み合わせのうち、もっとも抑制的であると予想される、HLA-Bw4陽性、KIR3DL1陽性、KIR3DS1陰性という群が、MPAにおいてオッズ比 2.35で有意に増加していました3)

これらの結果を解釈すると、ウイルス抵抗性の減弱と関連するKIR/HLAの組み合わせがMPAに感受性であるという可能性が示唆されました。MPAをはじめとするANCA関連血管炎において、細菌やウイルス感染が原因的に関与する可能性が示唆されていること、MPAが一般に高齢発症の疾患であることや、経過中にサイトメガロウイルス肺炎をはじめとする重症難治性感染症の合併が多い印象を受けることなどを考え合わせると、KIR遺伝子型による感染抵抗性の遺伝的な減弱が存在する個体に、加齢によるさらなる抵抗性の減弱が加わり、ウイルス感染の遷延化・重症化がもたらされ、これがHLA-DRB1をはじめとする複数の遺伝素因や環境要因の影響を受けて、血管炎の発症に至るとの仮説を提唱しうるのではないかと思います4)

LILR(ILT, LIR)は、2個の偽遺伝子を含め、13個の機能遺伝子(活性化型、抑制型あるいは分泌型)から構成されており、NK細胞のみならず、樹状細胞、単球、T細胞、B細胞、顆粒球、血管内皮細胞などにも発現し、最近では破骨細胞における重要性も示唆されています。一部のLILRはHLA-class IやサイトメガロウイルスのUL18を認識することが知られていますが、多くのLILRのリガンドは未知です。

われわれは、LILR遺伝子群の系統的多型解析と疾患との関連解析も進めています。これまでの知見では、LILRもきわめて機能的多型に富むことが明らかになり、関節リウマチとの関連も見出されています5)

文献

1) Tsuchiya N, Kyogoku C, Miyashita R, Kuroki K. Diversity of human immune system multigene families and its implication in the genetic background of rheumatic diseases. Curr Med Chem 2007; 14:431-439.

2) Tsuchiya N, Kobayashi S, Hashimoto H, et al.  Association of HLA-DRB1*0901-DQB1*0303 haplotype with microscopic polyangiitis in Japanese. Genes Immun 2006; 7:81-84.

3) Miyashita R, Tsuchiya N, Yabe T, Kobayashi S, Hashimoto H, Ozaki S, Tokunaga K: Association of killer cell immunoglobulin-like receptor (KIR) genotypes with microscopic polyangiitis. Arthritis Rheum 2006; 54:992-997.

4) 土屋尚之、宮下リサ:顕微鏡的多発血管炎の疾患感受性とKIR-HLA遺伝子相互作用。リウマチ科 36:514-521, 2006.

5)  Kuroki K, Tsuchiya N, Shiroishi M, et al. Extensive polymorphisms of LILRB1 (ILT2, LIR1) and their association with HLA-DRB1 shared epitope negative rheumatoid arthritis. Hum Mol Genet 2005; 14: 2469-2480.

戻る