関節リウマチ滑膜組織の血管内皮細胞におけるId遺伝子群の発現と、
血管新生における役割
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関節リウマチ(RA)の関節では、免疫異常、滑膜増殖、骨・軟骨破壊、血管新生などがからみあった、複雑な病態が認められます。遺伝子発現プロファイル解析は、このような複雑な病態で機能する遺伝子を、先入観なしに検出しうる実験系です。 われわれは、ディファレンシャル・ディスプレイ法を用いた遺伝子発現プロファイル解析を行い、RAの滑膜組織において、転写調節因子であるId (inhibitor of DNA binding/differentiation)の、滑膜内の血管内皮細胞における発現増強を見出しました1)。 Idは、Id1-Id4という4つの分子から構成されるファミリーで、helix-loop-helix (HLH)ドメインを持ち、ほかのbasic HLH蛋白と結合しますが、DNA結合部分を持たないため、パートナー分子のDNA結合を抑制し、分化を抑制、増殖を誘導するのが一般的な働きですが、その機能は細胞種やIdの分子種によっても異なります。最近、腫瘍移植片による血管新生の誘導に、宿主側のIdが必須であることが、マウスの実験から報告されました。 そこでわれわれは、RAの病態における血管新生の重要性を考慮し、Idが血管新生に果たす役割を、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)を用いたin vitro系で検討しました。Id1あるいはId3の強制発現のみにより、HUVEC増殖、ICAM-1, E-selectin、MMP2, MMP9発現、VEGF, IL-1bに対する走化性が誘導され、マトリゲル・アッセイにより、管腔形成の誘導も観察されました。すなわち、IdはHUVECに増殖、活性化、血管新生を誘導しました。また、HUVECをVEGFあるいはTGFbで刺激すると、Id1, Id3発現が誘導されました。 逆に、RNAiを利用して、HUVECにおけるId1, Id3のサイレンシングを行ったところ、VEGF誘導性HUVEC増殖、活性化、血管新生がほぼ完全に阻害されました。 以上の結果から、Idは血管内皮細胞においてVEGFによって誘導される増殖、活性化、血管新生において必須の役割を有すると結論づけられました2)。 腫瘍細胞では、Id自体が増殖や転移に関与する可能性が考えられます。実際、東大腫瘍外科との共同研究により、胃癌および大腸癌細胞におけるId1, Id3のサイレンシングが、転移抑制効果を持つことを証明することができました3)4)。 このように、Idは、RAや腫瘍のように、血管新生や細胞増殖が病態に深く関与する疾患において、分子標的となりうると考えられました。 文献 1) Sakurai D, Yamaguchi A, Tsuchiya N, et al. Expression of ID family genes in the synovia from patients with rheumatoid arthritis. Biochem Biophys Res Commun 2001;284: 436-442. 2) Sakurai D, Tsuchiya N, Yamaguchi A, et al. Crucial role of inhibitor of DNA binding/differentiation in the vascular endothelial growth factor-induced activation and angiogenic processes of human endothelial cells. J Immunol 2004; 173:5801-5809. 3) Tsuchiya T, Okaji Y,
4) Okaji Y,
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