FCGR2B-Ile232Thrと全身性エリテマトーデスとの関連

Fcg受容体IIb (FcgRIIb, 遺伝子はFCGR2B)は、細胞質内に抑制性シグナルモチーフ immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif (ITIM)を有する抑制型シグナル伝達分子で、B細胞や単球に発現します。

FCGR2Bは、ほかのFcg受容体遺伝子であるFCGR2A, 3A, 2C, 3Bと縦列して1q23の領域に位置します。これらは、いずれもきわめて相同性の高い多重遺伝子ファミリーですが、特にFCGR2Cは、FCGR2A2Bの不等交差によって生じた遺伝子と考えられ、FCGR2B2Cの上流側は、エクソンのみならず、イントロンや遺伝子間領域を含め、ほぼ100%の相同性が認められます。このために、FCGR2B特異的な多型解析はきわめて困難です。このような多重遺伝子ファミリーでは、機能的多型やコピー数多型(CNV)が許容されやすいため、多数の疾患感受性遺伝子が存在すると推測され、しかも、単純な方法では多型解析が困難な領域です。免疫系には、特にこのような多重遺伝子ファミリーが多数存在し、私たちは、特に興味を持って解析対象としています1)

私たちは、FCGR2Bの膜貫通領域に位置する232番目のアミノ酸をIleからThrに置換する多型を見出すとともに、関連解析の結果、日本人集団において、232Thr/Thr遺伝子型がSLEと有意に関連することを見出しました2)。同様の関連はタイ、中国集団においても認められ、これら3集団を統合すると、232Thr/Thr遺伝子型は、Ile/Ileと比較して、オッズ比2.45の有意な関連が存在することがわかりました3)4)

一方、ヨーロッパ系集団ではFCGR2B-232Thrの頻度は少なく、有意な関連も検出されませんでしたが、その後、アメリカの2つのグループから、FCGR2B遺伝子のプロモーター領域多型とSLEとの関連が報告されました。日本人集団では、このプロモーター多型は検出されず、同じ遺伝子であっても、集団の遺伝的背景により、異なる多型が関連する例と考えられました5)

私たちは、次に、東京大学アレルギーリウマチ内科の本田善一郎先生、河野肇先生との共同研究により、内因性FcgRIIb欠損ヒトB細胞株にそれぞれのFcgRIIbを遺伝子導入により発現させて、232IleのThrへの置換による機能的な変化を解析しました。FcgRIIbは、同じ細胞状に発現するB細胞受容体(BCR)と、抗原抗体複合物を介して共架橋されたときに、脂質ラフトにリクルートされ、また、抑制シグナルを伝達すると考えられています。われわれの解析結果では、SLEに関連するFCGR2B-232 Thrでは、静止状態、BCR-FcgRIIb共架橋下のいずれにおいても、脂質ラフトへの局在が有意に減弱していました。また、232Thr導入細胞では、共架橋時のみならず、BCRのみを架橋した場合においても、抑制性シグナルの減弱が認められ、より強い活性化を示すことがわかりました6)

これらの結果は、SLEにおけるB細胞の過剰な活性化という病態と整合性を持つものと考えられます。また、膜貫通領域の多型が、ラフトへの局在や蛋白の機能に影響し、多因子疾患感受性に関連する新たな機序を示すものとして、興味深い成果であると考えています5)7)

文献

1) Tsuchiya N, Kyogoku C, Miyashita R, Kuroki K. Diversity of human immune system multigene families and its implication in the genetic background of rheumatic diseases. Curr Med Chem 2007;14:431-439.

2) Kyogoku C, Dijstelbloem HM, Tsuchiya N, et al. Association of Fcg receptor gene polymorphisms in Japanese patients with systemic lupus erythematosus: Contribution of FCGR2B to the genetic susceptibility to SLE. Arthritis Rheum 2002; 46: 1242-1254.

3) Siriboonrit U, Tsuchiya N, Sirikong M, et al. Association of Fcg receptor IIB, IIIA and IIIB polymorphisms with susceptibility to systemic lupus erythematosus in Thais. Tissue Antigens 2003; 61: 374-383.

4) Chu ZT, Tsuchiya N, Kyogoku C, et al. Association of Fcg receptor IIb polymorphism with susceptibility to systemic lupus erythematosus in Chinese: a common susceptibility gene in the Asian populations. Tissue Antigens 2004; 63;21-27.

5) Tsuchiya N, Honda Z, Tokunaga K. Role of B cell inhibitory receptor polymorphisms for systemic lupus erythematosus: a negative times a negative makes a positive. J Hum Genet 2006; 51:741-750.

6) Kono H, Kyogoku C, Suzuki T, et al. FcgRIIB-232Thr allele product associated with systemic lupus erythematosus is excluded from lipid rafts and defective in inhibiting B cell antigen receptor signaling. Hum Mol Genet 2005; 14:2881-2892.

7) 土屋尚之、本田善一郎:目で見るバイオサイエンス:SLEの遺伝子多型。内科 2005; 96:1115-1119.

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